4.はあ? そりゃあ、うそだろう

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 朝っぱらから、ゆずるの機嫌は最悪だった。  昨夜、あのまま、ゆずるを抱き締めた格好で眠ってしまった直久は、ゆずるに蹴り飛ばされて目が覚めた。 「いってなぁ〜」  ベッドから転がり落ちた直久は、強かに打ち付けた腰をさすりながら、ゆずるを睨みつけた。 「いきなり何すんだよっ、てめぇーは! 昨日の夜、散々世話かけやがったくせによ!」 「お前が勝手に世話やいたんだろっ! お節介野郎!こっちは一言も頼んでない!」 「んだと!」  ぶち切れ、掴みかかろうとした直久の顔面めがけて、ゆずるは手元にあった枕を投げつけ、阻んだ。が、顔面に受けたところで、所詮、枕だ。それも、頑丈だけが取り柄の直久には、痛くも痒くもない抵抗で、直久はいとも容易くゆずるを組み敷いた。  もし、今日が満月でなければ、ゆずるも、もう少し抵抗らしい抵抗をしただろうが、それもできず、屈辱そうに眉を歪ませた。直久はそんなゆずるの表情を満足そうに見下ろすと、 「いい眺め」  と、耳元で低くささやいた。ゆずるの顔が見る見るうちに真っ赤になっていく。 「……で、出てけ!今、すぐ、出てけ!」  ゆずるは、渾身の力を込めた蹴り技を直久の急所にくり出す。  そして、再びベッドの下に転がったその身体を、間を入れずに部屋の外に蹴り飛ばした。  ――まぁ。そんな些細なエピソードのせいなのか、ゆずるの機嫌は最悪を極めていた。  朝食後、俺らが向かったところは、昨日、数が怪しいと指摘した三カ所のうちの一つで、そこはなんと、生け贄が捧げられた山だと言う。
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