1.またずいぶんと現実、いや、現代離れした話だなぁ

4/8
前へ
/95ページ
次へ
「ああ。悪い、パシリだったっけ?」 「このっ」 「だから、やめなよ!二人とも!」  直久がゆずるの襟元を掴みかかった時、数久の『待った』がかかった。 「降り過ごしたのは、僕が気を付けていなかったからだから、喧嘩しないの。ここで降ろしても貰えるように頼んだから、早く降りる準備して」  バスがゆっくり減速しているのが分かる。  直久とゆずるは互いの顔を十分に睨み合い、ほぼ同時に目を逸らした。 【改ページ】  ▲▽ 「で?」  バスが残していった排気ガスを眺めながら、直久は短く声を発した。灰色は次第に薄く、白い景色に溶け込んでいく。  これからどうすんだ?とゆずるに目を向けた。 「一旦、さっきのバス停まで戻るか?」 「その方が確実だけどね」  数久は地図に目を落とした。  地図は、人に描いて貰った物で、先程、降り過ごしたバス停から目的地までの道順が簡単に描かれている。   つまり、ここがどこなのか?とか、ここからどう行けばいいのか?といったことは、描いていない。  見渡す限りの銀世界。目印となりそうな物なんて、当然、ないのだ。 「やばくねぇ、迷子ジャン。俺ら……」  道は一本道だったはず。直久は、先程のバス停まで戻ることを提案する。が、数久とゆずるは首を縦に振る様子がない。  なんつーか、ひどく落ち着いたものだ。 「あっちのような気がする」  と、ゆずるが指した方角に数久も頷く。 「うん。僕もそう思う」 「じゃあ、間違いないな。行くぞ」  スタスタと歩き出してしまう二人を、直久はギョッとして追いかけた。 「ちょっと待てぇい」
/95ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加