4.はあ? そりゃあ、うそだろう

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 すると、ごぉーと言う低い音と共に炎が渦となって現れた。  一瞬にして辺りの雪を溶かしてしまった。 「……ごめん、もっと早くに、こうすれば良かったんだけど。オーナーを驚かせたらいけないと思って」  ニッコリして振り返った数久を、当たり前だと言うように頷くゆずる。対し、直久は腰を抜かしていた。  テレビゲームの魔法みてぇ〜。つーか、マジ! 人間? とりあえず、地球人?  数久のおかけで、断然、歩きやすくなった道を突き進んでいく。  しばらくして、社のようなものが見えてきた。辺りには、寒椿の木が赤く綺麗な花を咲かせている。 「椿か……」  椿は普通その名の通りに、春に咲く花を付けるが、他の草木が枯れる真冬に鮮やかに咲くものもあって、それを寒椿と言う。 「椿は、彼岸花に匹敵する不吉な花だったな」  ぼそりとゆずるが零す。 「不吉?」  思わず聞き返した直久の問いに、朝のことを引きずっているゆずるは答えなかった。  いや、ゆずるの場合、単に面倒臭いだけなのかもしれない。代わりに数久が説明してくれる。 「彼岸花は知っているよね?」 「昔、墓地とかによく咲いていたヤツだろ? 日本映画で、墓場をイメージしたシーンに使われるヤツ。毒とか、あるんだっけ? ――だいたい名前からして怪しいじゃん。彼岸花の『ひ』の字って、彼方の『か』の字と同じだろ? 『彼』って漢字には『向こう』『遠く』って意味があるから、彼岸花は『向こう岸の花』ってわけだ。向こう岸っていうのは、やっぱ、死後の世界のことだろうし。三途の川を越した向こう岸。  ぱっと見、きれいだけど、何か不気味だよな」
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