5.数ぅ〜。早く助けてくれよぉ〜

2/13
前へ
/95ページ
次へ
「あのう。ゆずるさんは?」  言い難そうに、オーナーの奥さんが数久と直久の間に目を漂わせながら、尋ねた。  あれからずっと部屋に籠もったままで、昼食の席にも、ゆずるは姿を現さなかった。 「気分が悪いそうなので……。すみません」  本当に申し訳なさそうに謝った数久の横で、 「気分じゃなくて、機嫌だろ」  と、直久は口一杯にご飯を詰め込んだ。  ――数は悪くない。ゆずるが勝手に怒っているのだ。数はゆずるを心配しただけなのに。  ホント、わけ分かんないヤツ!   怒りに任せてガツガツ食べたために、味がまるで感じられない。奥さんの手料理だというのに、なんつーもったいないことをしたんだ! 俺は!  ある程度腹が満足して、落ち着いた直久は奥さんに対して申し訳ないやら、ひらすら料理がもったいないやらで、沈んだ気持ちになった。  だが、落ち込んでばかりもいられなかった。急に、ゆずるのことが気なったのだ。  ゆずるは今、力を失っている。そんな時は悪霊に狙われやすいと言うのに、よりによって、ゆずるはあの超怪しげな開かずの扉の部屋の真上に、たった一人でいるのだ。 「大丈夫なのかよ?」 「え?」 「ゆずる、一人で」  直久の口から、まさかゆずるを心配するような言葉が出てくるとは思いもしなかったのだろう。  数久は一瞬面食らう。だが、すぐにやんわりと微笑んだ。 「大丈夫だよ。雲居に側にいてもらっているから」  雲居というのは、数久の白蛇の式神の名前だ。 「――ならいいけど」  直久は視線を落として湯飲みに手を伸ばした。すっかり冷めた緑茶を一息に飲み干す。  ほっ、とさせる穏やかな時間が流れた。
/95ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加