5.数ぅ〜。早く助けてくれよぉ〜

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 オーナーは湯飲みを片手に新聞紙を広げている。奥さんは台所で片付けをしている。食器がぶつかる音が、静かに響いていた。  いつの間にか、妃緒の姿がなくなっていた。そうと気付いた時、今があの事を聞くチャンスだと直久は思った。あの事、つまり、舜さんのことだ。  隣を振り向くと、数久も同じように考えたようで、目が合うと深く頷いた。 「オーナー、ちょっと良いですか? お聞きしたいことがあります」 「何かな?」  オーナーは新聞紙をテーブルの上に四つ折りにしておくと、二人の方に顔を向けた。 「ええーと、あの……」  切り出したものの、どう尋ねたらいいものか数久は迷っているようだ。おそらく差し障りのない言葉を選んでいるのだろう。  オーナーが舜のことを話さなかったのには、それなりの理由があったからなのかも知れない。……だとしたら、聞いていいものだろうか?   ――いや、むしろ問題は、本当に舜という人物が存在するのだろうかという疑問だ。  妃緒以外の者から舜の存在は聞かされていない。その上、舜が存在しているという気配がまったくないのだ。もしや、舜は妃緒が勝手に作り上げた想像上の人物ではないだろうか。  あらゆる思考が交差する。言葉に詰まった数久に代わって、口を開いたのは直久だった。 「舜という名前に、心当たりないですか?」 「舜……?」  途端、オーナーは顔色を失った。エプロンで濡れた手を拭きつつ、台所から戻ってきた奥さんもひどく青い顔をしている。とにかく聞き覚えのある名前らしいことに、間違いはないようだ。
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