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例えるならば、泥の中に沈んでいく感じ。なんだか、生ぬるい。38度の風呂って感じ。
これが漫画なら、絶対、『ズブズブズブ』という効果音が書いてあったはずだ。
――なぁんて、悠長なことを考えられるあたり、俺はまだ死んでいないらしい。
だけど、いったい、どうなっちゃったんだ? 確か、霊が俺の体の中に入ってきて、……って、まさか、俺、体乗っ取られたとかぁ? んで、今頃、カマ言葉で数やゆずると対話してたりして。
わ、笑えねぇ〜。
そうこう考えているうちに、目の前の闇が薄らぎ、徐々に周りが見えてきた。きっと、数が何とかしてくれたんだな。霊を祓って。
だが、闇が完全に消えたそこに数久やゆずるの姿はない。代わりに目に映った人物は見知らぬ少女だった。
「誰?」
気付くと互いに問うていた。思わず、笑ってしまう。
どうやら少女にとって、直久の方が、突如現れた怪しい人物らしい。
「俺は直久。君は?」
床に膝を着いてしゃがみ込んでいた直久は、ゆっくり立ち上がり、辺りを見回した。
ここは?
一見、さっきまでいた場所となんら変わらないように思えた。だが、時々しか掃除しないさっきまでの廊下と違い、よく整い、埃一つない。薄暗く、全く人の気配がしなかったはずなのに、ここは明るく、どこからか人の声が騒がしく聞こえている。いかにも人が住んでいます、って感じである。
驚いて立ちつくしている少女に、直久は歩み寄った。一歩一歩近づくにつれ、その顔がはっきりと見えるようになる。
はっ、として直久は歩みを止めた。あの長い廊下に飾ってあった少女の絵と同じ顔をしていたのだ。
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