6.いま何年? 何年何月何曜日? ついでに何日?

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 ――どういうことだ?  直久はゴクリと咽を鳴らした。 「君、ツバキ……さん?」  少女は再び驚いたような顔をして、首を横に振った。 「私はアヤメ。ツバキは私の姉よ」  そこでようやく直久は、少女――アヤメの瞳が濡れていることに気が付いた。 「かわいそうで、哀れなツバキ。死ぬために生まれてきたの」  アヤメはふと、不思議そうな瞳を直久に送った。 「どうして、ツバキを知っているの? それに、あなた、いったいどこから現れたの?」  直久は言葉に詰まる。直久自身が聞きたい。  ここはどこなのか? 自分はどうなってしまったのか? 「ツバキさんの絵を見たんだよ。白い椿が咲く庭の」 「ああ、時也さんが描いている絵ね」 「時也……さん?」 「ツバキの絵描きよ。ツバキと私は双子なの。両親だって間違えるほどそっくりなのに、時也さんは間違えたりしないのよ。ツバキはツバキ、アヤメはアヤメだってね」  どっかで似たようなセリフ聞いたなぁ。 「もうすぐ、その絵が完成するでしょ。だから、みんな、儀式の準備に忙しいのね。あなたみたいな不審者が入り込んでも、まるで気付かないわ」  と、アヤメはくすくす笑う。  その不審者と平然と話しちゃっているあたり、世間知らずの深窓のお嬢さんって感じがする。  普通、突然、見知らぬ人が現れたら、驚いて騒ぎ立てるものじゃん。  驚くまではしたが、全く騒ぐ様子がない。その口調は旧知の友人と話しているようだ。  まっ、こっちも気楽でいいんだけど。 「儀式っていうと?」 「山の神様に生け贄を捧げる儀式よ」 「それ、いつ?」
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