6.いま何年? 何年何月何曜日? ついでに何日?

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「彼の体内に侵入して来た異物――少女の霊をソレが徐々に吸収していっているようだ」 「どういうことですか?」  舜は問いかけてきた数久の方に振り向くことなく、直久の死人のような寝顔を見つめたまま、分からないと答えた。そして付け加える。 「彼はソレから少女の霊を守ろうとしているようだ」   【改ページ】 ▲▽    物語の主人公は、いつも可哀想なお姫様。  悪い魔女に虐められる哀れなお姫様。    お姫様は無垢で可愛らしい。  疑うことも、恨むことも、知らない。    愚かで無知なお姫様。  誰もが哀れむ。    私はお姫様ではない。  彼女を哀れむ立場であり、実際、彼女の不運に涙した。    だけど、なぜ?    なぜ、物語の最後にきて、彼女を羨ましく思うのか?  物語の最後だけ、彼女と入れ替われたらと思ってしまうのは、なぜだろう?    【改ページ】 ▲▽    アヤメ――彼女の日常は、扉を叩くことから始まる。  屋敷の、他のどの扉よりも幾分も分厚く、重いその扉を恐々と叩く。 「ツバキ、いるの?」  アヤメがその扉を開くことはない。毎朝、毎朝、彼女はただその扉を叩くだけなのだ。  しばらくして、扉の向こう側からコンコンと返事が返ってきて、アヤメはホッと息を漏らした。  もし、返事が返ってこなかったら……。そう思って、叩くことを躊躇うこともある。  だが、もし、ツバキが逃げてしまっていたら……と思うと叩かずにはいられない。  もし、ツバキが逃げてしまったら、アヤメが生け贄にされてしまうのだから。
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