6.いま何年? 何年何月何曜日? ついでに何日?

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 扉の中に入ると、すぐそこは階段となっている。部屋自体は地下にあるのだ。 窓のようなものは一切なく、時也が手にする明かりのみが部屋を照らしている。  一段一段降りていくにつれ、気温まで下がっていくようだった。一応、人が住めるような造りをしているが、そこはまるで牢獄であった。 「ツバキ」  時也が優しく名前を呼ぶと、その囚われの少女がふわっと微笑んで彼を迎えた。  生まれてから、一度もこの部屋から出たことのない彼女は、どんなに外の世界が汚れていようと、人の心がいかに醜かろうが全く関係なく、清らかにそこに存在している。  無垢で、可愛いツバキ。  ツバキを前にすると時也は堪らなくなる。  この少女を連れて逃げられたら……。  科学が進んだ近代で、やれ祟りだ、やれ呪いだと信じる者は少ない。まして、山の神に生け贄を捧げないと村が滅亡するなどと、本気で信じている者などいない。  儀式を主催者である彼女の父親自身さえ、信じていないだろう。  だが、家のため、利益のために実の娘を殺そうとしている。なんて馬鹿な話だろう。  助けたい。  ツバキを助けたい。  そして、自分の手で、今までの分までも、幸せにしたい。  時也は、自分の腕の中で、今でも十分の幸せだよ、とでも言い出しそうな顔をしている少女の額に甘く口付けた。    もう、ずっと前から知っていた。  気付いていたのに、認めたくなくって、目を閉じて、見ない振りして、耳を塞いで、聞こえない振りをして、そして、自分に嘘をついていた。  だけど、どうしようもない。彼はツバキを愛しているのだから。  
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