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「どれがいいと思う?」
「どれでもいいんじゃん?」
直久に言わせると、どの服も全部同じに見えるのである。どの服も鮮やかに赤い。
「なんで、赤い服しかないわけ?」
直久は眉を歪ませ、開け放たれたタンスの中を見回した。
似合わないことはないけど、赤ってイメージじゃないんだよねぇ。
「これ、これがいいよ」
と、直久が引っ張り出した服は無地の白い服。
「それぇ〜?」
アヤメはあからさまに不服そうな声を上げた。
「私のイメージとは違うわ。白はツバキの色、私は赤なのよ」
「何それ?」
「そう、時也さんが言ったの」
直久にしては珍しく不機嫌丸出しの顔になる。
「だから、それは時也さんの勝手なイメージだろ! 確かに、俺が、アヤメさんは白だって言うのも勝手なイメージからだけど。だけど、今、アヤメさんは俺に意見を聞いただろ? アヤメさん自身の好みで断られるならまだしも、なんで時也さんの勝手で俺の意見が却下されちゃうわけ?」
「……分かったわ、着てみる」
強い口調で言い張った直久に負け、アヤメは直久の方に手を伸ばした。
手に持っていた白い服をアヤメに手渡そうとした時、直久は差し出された手に、はっとなった。
「何?」
自分の手の甲に目を釘付けにされている直久にアヤメは不思議そうに見つめ返す。
その瞳があまりにも澄んでいて、直久は口籠もる。
「なんでもない」
だが、確かに見てしまったのだ。アヤメの手の甲にある火傷の痕を。
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