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まだ新しい傷らしく、赤く腫れ上がっていた。そして、その傷の形が、数久に描いてもらった直久の手のひらにある護符の模様とまるで同じであったのだ。
白い服に着替えたアヤメは、直久の前でくるりと回って見せた。
「似合うよ」
自分の顔が引きつってやいないかと不安になる。だが、アヤメは直久に目もくれず、鏡の中の自分をじっと睨んだ。
「私じゃない。これはツバキよ」
そして、ため息をつく。
扉が軽い音を鳴らせた。
「誰?」
びくっと振り返ると、すぐにその答えが返ってきた。
「僕だよ」
「アカネ?」
「どうしたの?」
さっと扉を開けたアヤメが、アカネと目線が合うようにかがむ。アカネは無言でアヤメの首に抱きついた。
「どうしたの?」
背中を優しく叩きながら再び尋ねてやると、ようやくアカネの弱々しい声が返ってきた。
「お願いだから、お茶会に出ないで」
「え?」
「時也とツバキの奴が変なこと言っていたんだ。姉さんがツバキになって、ツバキが姉さんになるって。それで、逃げるんだって」
「どう……い…う…こと?」
アヤメの目の前が暗くなる。
「僕、聞いちゃったんだ。二人が話しているところ。今晩のお茶会で姉さんに睡眠薬を飲ませて、姉さんが眠っているうちにツバキを連れて逃げるって。姉さんをツバキの代わりに、あの部屋に閉じ込めて、生け贄にするつもりなんだ!」
直久はアカネの話しに、口元に拳を当てて考え込む。
――そう言えば、ツバキは絵描きと駆け落ちしたって妃緒ちゃんが言っていたっけ。
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