8.だから絶対、助け出す!

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 アヤメの手を引いていた時也の足が、不意に止まった。辺りは闇に覆われ、降り積もる雪の音だけが静かに響いていた。  どうしたのだろう? と時也を見上げるアヤメ。そのアヤメの顔を時也は、じっと見つめた。 「ツバキじゃない」  小さく漏れたその言葉にアヤメは青ざめる。時也はアヤメの手を振り払った。 「どうして……?」 「違和感があったのです、あなたの手を握りしめた時。それが次第に強くなって」 「なんで!」  アヤメは咽が裂けるほどに叫ぶ。 「私とツバキなんて、どっちだっていいじゃない!どっちだって一緒じゃない!」 「違う!」  時也は忙しくなった息遣いを整えて、もう一度アヤメの言葉を否定する。 「あなたじゃない。僕が愛しているのは、あなたじゃなくて、ツバキだ」  アヤメは頭を殴られたような衝撃を受けて立ち尽くした。  次第に雪が強く降るようになってきていた。視界が悪く、すぐ近く、手を伸ばせば届くくらいの距離にいるはずの時也の表情さえ、アヤメには分からなかった。  雪のせいだけではない。熱く、潤んだ瞳のせいでもある。  一旦は時也の方へ伸ばしかけた手を、諦めるかのように、アヤメは下ろした。 「アヤメさん!」  不意に呼ばれて振り返ると、そこに直久が息を切らせて、前屈みに立っていた。  なぜだろうか?  側にいるはずの時也の姿は全く見えないというのに、少し離れた直久の姿ははっきりと浮き出ているように見える。
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