8.だから絶対、助け出す!

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「アヤメさん。やっぱり、俺さ。どんな格好をしていても、どんなにうまくツバキの振りしていても、アヤメさんはアヤメさんだと思う。ツバキがこの世にツバキ一人しか存在していないように、アヤメさんだって一人しかいないんだ。――だから、もし、何百っていう人がさ、アヤメさんの振りをしていて、それがもう、すっげぇそっくりだったとしても、アヤメさんを捜し出すことができる人は必ずいるんだ。ツバキにとっては、その人が時也さんだったんだよ。――だから、アヤメさんが、どんなにうまくツバキの振りをこなしていても、時也さんにはバレてしまうんだ。ダメなんだよ」  直久はそう語りかけながら、ゆっくりとアヤメに歩み寄り、その肩にそっと手を置いた。 「やめようよ。自分を押し殺すようなことなんかさぁ。アヤメさんにとっても、たった一人の誰かが絶対、必ず現れるから。その時にアヤメさんがアヤメさんじゃなくて、どうすんだよ!」  静まりかえった闇の中で、直久の言葉は教会の鐘の音のように高らかに響き渡った。  直久の必死の言葉にアヤメは少し俯く。そして、そのまま小さく頷いた。 「……分かったわ。ツバキを解放してくる。でも、逃げることないわ。父を説得して、生け贄なんてやめさせるから」 「そんなことが?」  いつの間にか、視界がはっきりとして、時也の顔もはっきりと見える。  アヤメはその顔を見つめて、言い切った。 「できるわ! やるしかないもの。時間はかかるかもしれないけど。でも、そうね。父が納得するまでツバキをどこかに隠さなければならないわ。やっぱり、しばらく村から出ていた方がいいわね、二人で」
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