8.だから絶対、助け出す!

8/9
前へ
/95ページ
次へ
 だが、絵描きなんかと駆け落ちしたという傷を負ったアヤメは、適当な家に嫁に出すという望みを失ってしまい、駒としては使い物にならなくなってしまったのだ。  彼は白い服を着た人形のように美しい少女を見つけると、有無も言わせず引き金を引いた。 【改ページ】 ▲▽    いくつかの銃声が痛々しく辺りに響いた。    雪に呑まれるように倒れ込んだ二人の回りに、幾重もの人垣ができていた。だが、誰一人として、その二人に手を貸そうとする者はなかった。  ただ、じっと、二人が息絶えるのを見つめている。直久が駆けつけたのは、そんな時だった。  重たい雪が二人を隠していく。  ……な…お……ひ…さ……。  ツバキの声が聞こえた気がして、直久は人垣をかき分け、彼女に駆け寄った。  彼女の背中から血が噴き出し、流れ、彼女に白い服を赤く、赤く染めていく。  それは、この白い雪の上に、妖しいほど美しい寒椿の花のようだった。  美しく咲いた次の瞬間、ポトリと地面に落ちるその花を、人々は首が落ちるようだと気味悪がるが、本当にこの花は美しいのだ。  白の上に浮き出るような鮮やかな朱。  悲しくも、切なく、美しい色。 「なお……ひ…さ」  ツバキの、紫色になってしまった唇が小さく動く。自分に伸ばされたツバキの手を直久は膝を着いて受け取った。優しく両手で包み込む。  ――これでいいの。私はこれでいいの。  ツバキの気持ちが直久に伝わってくる。  ――幸せなの。これが私のハッピーエンドなの。分かるでしょ?  自由を得たの。愛した人と死ねるの。ずっと一緒にいられるの。
/95ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加