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直久は、体が怠く、重くなっていくのを感じた。思うように走れない。
心なしか、辺りの景色がぼやけていくように思える。
――待ってくれ。もう少しだけ。彼女の元にたどり着けるまで。
扉が見えた。アヤメのいる部屋の、あの、生け贄にされる少女たちの部屋の扉が。
だが、その時、襲いかかるように白い光が直久を包んだ。
「直久!」
薄く開いた目に真っ先に飛び込んできたものは、青ざめたゆずるの顔だった。続いて数久の顔。
「直ちゃん。よかった、気が付いて」
直久は一言も発さずに、自分を抱きしめていたゆずるの手をどけて、身体を起こした。
――戻ってきたのか、俺は……。
唇を噛み締める。
「直ちゃん、大丈夫?」
心配そうに覗き込んできた数久に、無理矢理に笑顔を返したものの、悔しくって仕方ない。
結局、何もできなかったのだ。
俯いた直久の手に、そっとゆずるが手を重ねる。びっくりしてゆずるを見ると、ゆずるは直久の握り固められた拳を自分の手で包み、そっと胸の高さまで持ち上げる。
その拳の中に異物を感じて、直久はゆっくりと手を開いた。
「ああ」
ため息が漏れた。
こんなに錆び付いていただろうか?
あの部屋の鍵が直久の手に静かに収まっていた。
直久は再び鍵を握り締めると、呼び止める声を無視して駆けだした。
早く、早く。階段を駆け下りて、あの部屋に。
一刻も早く、あの部屋に――彼女の元へ急がないと!
直久は例の扉の前で一旦足を止めた。鍵を持つ手が震える。
カチッ。
鍵が開く。直久は一呼吸付いてから、扉をゆっくりと開いた。
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