9.青空が広がるその下で

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 あれから、いったい、どれほどの月日が流れたのだろう?  彼女は、ずっと、ずっと、直久を待ち続けていた。扉の内側には、何度も何度も引っ掻いた痕があり、剥がれた爪が扉に刺さっていた。  至る所にある黒ずんだシミは血だろうか?  扉のすぐ側で、彼女は力尽きていた。  ボロボロの布を纏った一体の人骨の脇に直久は膝を着いた。 「アヤメさん。長く待たせて、ごめん。……ほんと……ごめん」  そう言ったきりで、もはや直久の口から出てくる言葉はなかった。ただ、涙だけが。   【改ページ】 ▲▽   「本当に、ありがとうございました」  何度も繰り返し頭を下げるオーナーに、優しく首を振る数久。 「もう大丈夫だと思いますが、また何かありましたら、いつでもおっしゃってください」  ペンションを覆っていた影もすっかりと晴れ、紫緒の意識も取り戻されて、万事解決したわけだが、なんだか、すっきりとしない。  旅行鞄を片手で担ぎながら、直久は眉間にしわを寄せ、数久に振り向く。 「数、ちょっと聞きたいんだけどさぁ〜」 「何?」  直久は、自分だけに起きた体験をゆずると数久に話し聞かせていた。すると二人は何やら納得して、オーナーに仕事を終えたことを伝えたのだ。だが、直久はちっとも納得できない。 「確認するけど、ゆずるを襲った少女の霊はツバキだったんだよなぁ? その理由はアヤメさんを連れ戻すこと」 「それと、鍵を手渡すためにね」 「じゃあ、紫緒さんやオーナーの妹とか、長女に生まれた娘が16歳になったら魂が抜かれたようになっちゃうのって、それとどう関係してたわけ?」 「それは……」
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