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「あれ? お姉ちゃんって、直久さんと数久さんが見分けられるの? ちゃんと二人を見分けられるのって、ゆずるさんくらいかと思ったわ」
――そう言えば、紫緒さん、今、まっすぐ俺のとこ来たよなぁ。
普通、初対面の人は俺と数って、絶対どっちがどっちなのか分からないんだけど。
紫緒はクスクス笑う。
「やあね、妃緒ったら。全然違うじゃない。見分けるも何も、直久さんと数久さんは別の人ですもの。ねっ、ゆずるさん」
急に話を振られたゆずるは、紫緒を一瞥しただけで、無言で眉を顰めた。
それから、二人は何だかんだ言ってバス停まで見送ってくれた。
一時間に一本、しかも午後2時が最終便だという、末恐ろしい田舎のバスがちんたら走ってくる。
それを横目にしながら別れを言い交わした。
バスが止まり、ゆずるが乗り込み、続いて数久が乗ろうとした時、直久はふと思い出した。
「そう言えば、舜さんは?」
その言葉に驚いて、数久が振り向く。
「直ちゃん!」
はっ、として妃緒の顔を見る。 すると、妃緒は今にも泣き出しそうな顔をして直久を睨み返す。
「やっぱり、お兄ちゃんは死んでいたのね」
どうやら山の神は妃緒に本当のことを話したらしい。しばしの間、舜の身体を借りているだけだということを。
紫緒の意識が戻り、舜の望みが叶えられた今、山の神は舜の躰を返さなければならない。
もっとも、死体にずっと憑依するというのは無理な話だった。死体は時と共に朽ち果ててしまうものだから。
そう思って、思い返してみれば、少し腐ったような臭いがしていた気がする。
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