9.青空が広がるその下で

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「でもね、本当は知ってたの。ちゃんと分かっていたのよ。ただ認めたくなかっただけ」  妃緒は目を細めて、いたずらっぽく笑った。 「それにね、けっこう好きだったの」 「へ?」 「山の神様」  ふふっと笑って、妃緒は続けて、 「この辺りが栄えていたのって、山の神様がいたからだよね。山の神様を山に閉じ込めていたから、この辺りが栄えていたんでしょ。自分たちの都合で閉じ込めた神様を慰めようとして生け贄を考えたわけで、生け贄を出さなくなった今、神様はさびしいのよ!」  と、言い切った。 「確かに、いくら舜さんに命を捧げられたからって、そうそう気軽に住処を離れたりしないね、普通は。霊とかもそうだけど、思い入れが深い場所――神様の場合は社だけど、そういった場所から離れることを嫌うものなんだよ。寂しかったのかもね」  数久がそう言うと、そうでしょ! と妃緒は、瞳をきらきらと輝かせた。 「だから、私が慰めてあげることにしたの!」 「ええ? まさか、妃緒ちゃん生け贄になるんじゃ……」 「べつに生け贄だけが慰める方法じゃないでしょ?」  妃緒は驚きの声を上げた直久の目先に人差し指を突き立てた。 「約束したの。あと二年したら、お嫁さんになってあげる、って」  ズルッ。  直久の肩から鞄がずり落ちた。 「ま、まじでぃ?!」 「本気よ。だって約束したもの。そしたら、もう生け贄の必要なく、村も栄えるじゃない?」 「いや、そうかもしれないけど……。だって……マジ?」  直久が腑に落ちない顔をしていると、バスの窓を大きく開けて、顔を出したゆずるが、 「良い考えですね」  と、にっこり。
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