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「っでしょ! さすが、ゆずるさん!」
絶句。
そうか、ゆずるにしろ、うちの家系の奴に、異種間結婚に偏見があるような常識的な奴はいない。
つーか、違和感すら感じないような奴ばっかなんだな。
「ほら、直ちゃん。早く乗って」
いつの間に乗り込んでいた数久が、バスの中から呼んでいる。
妃緒のことがまだ引っかかるが、仕方ない。じゃあ、と短い別れを告げて二人に背を向けると、あわてて紫緒が直久の袖を掴んだ。
「また来ていただけますか?」
振り返ると、必死な瞳と会う。
「もちろんですよ。お困りでしたら、いつでもどうぞ。お呼び立てください」
おちゃらけて答えると、紫緒は直久の袖から手を離し、ゆるやかに首を振った。
「仕事ではなく、思い出した時に、会いに来て欲しいのです」
直久がバスに乗ったのを確かめて、バスの扉が閉まる。ガタガタと重そうに走り出した。
「ずっと、待っていますから。今度はちゃんと待っていますから……」
遠く、小さくなっていく紫緒の姿を直久は、それが消えて見えなくなってしまうまで、目で追い続けた。
青空が広がるその下で、真っ白い雪が静かに横たわり、赤い椿の花が直に咲き乱れようと蕾を大きくさせている。
【完】
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