13 幸せな結婚式

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13 幸せな結婚式

「でも、分かりませんわ… なぜ、Sランク魔導士という事を隠すのですの…?」 私は尋ねる。 Sランク魔導士ならば、宮廷魔導士としてトップをとり、新興貴族になる事もできるのに… 「んー… そうですねぇ… 単純に言えば面倒だから、でしょうか? 私は宮廷で縛られて暮らすのは性に合って無いんです。 それに、大きな力を手に入れた者には必ず代償があります。 それは、私の考えですが… まぁ、とにかく私がSランク魔導士である事は内緒にしておいて下さいね?」 ゼルゼディス様は言う。 「え、えぇ、もちろん私から言うつもりはありませんわ。」 私。 「助かります。 ありがとう、エシャロット。」 ゼルゼディス様。 こうして、私は貧乏魔導士様と、いや、貧乏Sランク魔導士様と結婚する事になったのだった。 辺境の領地に帰ると、私たちは相変わらず農作業にいそしんだ。 生ゴミ堆肥は大人気で、生ゴミが領地から消えてしまうほどだった。 みんな豊作になり、飢えて亡くなる方はほとんど居なくなった。 ♦︎ そして、そのよく晴れた日、領地内の公園で私とゼルゼディス様は挙式を行った。 ゼルゼディス様のタキシードは領民から借りた物でつぎはぎだったし、私は化粧品が切れてほぼノーメイクでドレスを着たが、領民からの祝福の拍手は心からのものであった。 私とゼルゼディス様はど素人の領民のドラムとラッパに合わせて、軽快に踊り、みんなから歓声が上がった。 そして… 最後に私たちは永遠の愛を誓い合い、誓いの口付けをした。 それは、5秒ほどの短いものだったが、私は確かにゼルゼディス様の妻となったのだ。 その日は飲めや歌えで、夜まで幸せな結婚式は続いたのだった。 ♦︎ 次の日、私は朝から卵と格闘していた。 「新婚初日に卵と戦っているのですか…?」  ゼルゼディス様は呆れ果ててそう言った。 「卵焼きを作っているのですわ!」 私は超真剣だ。 「卵焼き? 卵を焼くんですか? 簡単じゃ無いですか。」 ゼルゼディス様は全く分かっていないようだ。 「違いますわ。 卵焼きとは、卵をかき混ぜ、卵液を薄く焼きながら… えぇい! ちょっと黙って見ててくださいな!」 私は前世の知識総動員で、卵焼きを完成させた。 「へぇー? 変わった料理なのですねぇ? しかし、生ゴミ堆肥といい、あなたは一体どこからその知識を…?」  ゼルゼディス様が首を傾げる。 「い、い、いいから! 食べましょう!」 私は卵焼きを6等分しながら、そう言った。 しかし、私が前世の記憶持ちだという事は、いずれゼルゼディス様には言わなければならないだろう…
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