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17 ささやかな幸せ
ゼルゼディス様の言った通り、小1時間ほどで辺境の領地付近に到着し、メゾドリックさんはみんなが怖がるといけないから、と空に舞い上がって行った。
領地を歩きながら、2人で屋敷に帰っていると、いろんな人が声をかけ、野菜や果物をくれた。
「エシャロット様!
ナスが豊作でねぇ!
ほら、持ってきなー!」
「エシャロットさま、ぼく大きくなったら、エシャロットさまとけっこんするの!
これ、あげる!」
領民達はこんな私でも受け入れてくれた。
その事がとても嬉しかった。
「すっかり人気者のポジションをエシャロットに取られてしまいましたねぇ。」
ゼルゼディス様は少し嬉しそうにそう言った。
「いえ、ゼルゼディス様が居てこそだとみんな分かっているからですわ。」
「まぁ、そういう事にしておきましょうかね。」
「あら、本当ですわ!
私だって…
その、感謝していますもの…!」
「感謝…ですか…」
ゼルゼディス様は少し寂しげな表情でそう呟いた。
「どうしましたの…?
私何か悪い事を言ってしまいまして?」
「いえ、あなたは、その…
いや、何でもありません…
そうだ、それよりも!
屋敷に帰って魔法簡易キッチンの組み立て方を覚えておきましょう!」
ゼルゼディス様ははぐらかすように言った。
私には彼が何を言おうとしたか、全く見当もつかなかった…
とにかく屋敷に帰って、2人で、あーでも無い、こーでも無いと言いながら、魔法簡易キッチンを組み立てた。
「じゃ、今から新作のにんじん入り卵焼きを作りますわ!」
「おぉー!って…
それって卵焼きににんじん入れるだけですか…?」
ゼルゼディス様が余計なツッコミを入れる。
「あら、何か問題ありまして?(怒」
「いやぁ、美味しそうだなぁ!ははっ!」
私の鬼の顔に負けたゼルゼディス様がそうフォローした。
そんなやり取りでさえ、楽しんでいる自分が居た。
にんじん入り卵焼きと言っても、コンソメ味でにんじんを柔らかくして、卵液と巻き込むので、新作と言ってもいいはずだ。
まぁ、美味しいかどうかは…
保証しないが…
そうして、色々な野菜入り卵焼きを作って、2人で卵三昧の夕食を食べた。
「しばらく卵は見たくありません。」
ゼルゼディス様がげんなりして言い、「私もですわ…」と深く同調した。
そうして、お風呂に入って、いつものように同じベッドで眠った。
「ねぇ、エシャロット?
たまには少し大人な夜を…」
ゼルゼディス様が何か言ってるのは分かったが、私は既に夢の入り口に入ろうとしていたので、返事はしなかった。
その後、何かが頬に触れた気がしたが、それが何かは分からなかった。
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