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6 牙を剥く木竜に…
木竜は鋭い牙を向け、私に襲い掛かろうとする。
噛み殺される…!!!
しかし、その時…!
突如風が吹き荒れ、その塊が木竜に直撃した。
『ぐっ…!
誰だ!?』
「困りますね、私の妻に牙を向けられては…」
『魔導士ゼルゼディス…!』
「エシャロット、大丈夫ですか?」
ゼルゼディス様は腰の抜けた、私に手を差し伸べる。
「木竜、ロロドよ。
私に免じて妻を許してほしい。
あなたと敵対するつもりは無い。」
ゼルゼディス様は私を立たせながら、穏やかにそう言った。
『…仕方あるまい。
早々に山から去られよ。』
「ありがとう、ロロド。」
そして、木竜は山の奥に消えていった。
「エシャロット…!
あなたがこの山に行ったと聞いてどれほど心配したか…!」
「ご、ご、ごめんなさい…」
安心して、私の瞳からはポタリポタリと涙が溢れ落ちる。
「泣かないで、エシャロット。」
ゼルゼディス様が私を引き寄せ、抱きしめた。
ゼルゼディス様の胸の中は暖かくて、私はやっと呼吸を出来た気がした。
そして、しばらく泣いて落ち着いた後、リアカーをゼルゼディス様が押し畑に帰った。
「この土、どうするんです?」
ゼルゼディス様は不思議そうに尋ねた。
「畑の土にまぶすんです!」
元気を取り戻した私は答えた。
私はゼルゼディス様と一緒に腐葉土をお爺さんの畑にまぶした。
これで少しはマシなはずだ。
「おぉ、土が肥えたなぁ…!」
お爺さんは驚いて言った。
「確かに…」
ゼルゼディス様も感嘆する。
「そうでしょう!?」
私は嬉しくてそう答えた。
「だからと言って木竜の山に行ったのを許した訳じゃありませんよ?」
ゼルゼディス様が釘を刺す。
意外とねちっこいのね…
とは口に出しては言わないが…
「ごめんなさい。
だけど…」
「どうかしましたか?」
「え、えぇ。
普通、竜は宮廷魔導士3人がかりで倒すと聞いていました。
ゼルゼディス様はお1人で…?」
え、でも、ゼルゼディス様は宮廷魔導士の中じゃ下っ端???よね…?
「火事場の馬鹿力という奴ですよ。
私が竜を倒せる訳無いでしょう?」
ゼルゼディス様は顔を背けてそう言った。
それもそうか、と納得する私。
♦︎
それから、1週間後。
「ゼ、ゼ、ゼルゼディス様ぁ!
エシャロットさん!
大変でごぜぇやす!」
お爺さんが大声でそう言いながら、ゼルゼディス様の屋敷に駆け込んだ。
「何ですかお爺さん?」
「ナスやきゅうりがわんさか育って…!」
「えぇ!?」
私とゼルゼディス様は畑に向かった。
そこには、たわわに育った野菜で溢れていた。
「エシャロット、どういう事なんですか…?」
「いえ、私はただ木竜の山の腐葉土を混ぜただけで…」
こんなに効果があるとは思わなかったのだ。
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