妖精ディアナ

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 ねえヴラド、いいのかな? 夢のためにひろがる景色が、今ぜんぶ、わたしたちのためだけにあるなんて。  ディアナは軽やかに立ち上がり、ヴラドの袖をつかんで引っ張る。「こっち」 「ディアナ? どうしたの、いきなり――」  かれのことばを無視して、ディアナはふわっと宙に浮かぶ。つられてヴラドも。  ふたりはそのまま《ミーミル泉》の中心部まで移動する。紫がかった月のスポット・ライトを浴びて、ディアナはようやく振り向くと、 「一緒に踊りましょう」 「……ええと。ぼく、踊ったことないんだけど」 「大丈夫、わたしも初めてだから。ずっと座ってて疲れたでしょ?」今夜のディアナは口数が多い。透明感のある繊細な声も心做しか浮かれており、返事に窮するヴラドを楽しそうに煽る。「どんなに下手でも平気よ、見てるのは月だけだもの」  月明かりに照らされ、ふだんよりあいての顔が明瞭に窺える。上目遣いでお願いするディアナに、ヴラドはこほん、と小さく咳払い。どうやら決意したようだ。一歩下がり、背筋を伸ばす。脚をそろえ(うやうや)しくお辞儀をして、 「ディアナ。よかったら、ぼくと踊ってもらえませんか?」  どれくらい時間が経っただろう。空中で踊るメリットはあいての服の裾を踏む心配をしなくていいことだろうけど、おたがいの脚が絡まってバランスをくずす失敗は数え切れないほどあった。そんな感じで初めこそ笑いながらぽつぽつ会話を紡げていたものの、やがてダンスに熱中するあまり、とうとう完璧な沈黙が仕上がってしまった。「どうにかして話題を見つけないと……」と、ヴラドは必死になって考えを巡らせるものの、時折ディアナと目が合い、その都度かのじょが綺麗なほほえみを向けてくるものだから、頭のなかのキャンバスはずっと白紙のままだった。
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