妖精ディアナ

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「ううん」ディアナは首を横にふる。ヴラドの腕のなかで、かすかに光の粒子が踊る。「むしろ空気は澄んでいるみたい。この調子なら明日も晴れそうだよ、ほら……見てごらん」  かのじょが指さす方角に顔をあげてみると、そこには破れた夜のとばりから溢れる無数の星が散りばめられていた。  滔々(とうとう)と湧きあがる天の川の真ん中で、白鳥の尾をになう一等星のデネブがまばゆく豪奢にかがやいている。せせらぎに便乗し悠々と泳いでいたいるか座の星たちは、デネブの圧倒的な光に思わず跳び上がっておどろいてしまう。そして挨拶もそこそこに華やかな水しぶきをあげながら天の川を駆けおりていく、そして暫く離れたところで、群れの星同士はふっと見つめ合い、笑いながらじゃれて遊び始める……。  南方に視線をうつすと、低空で怪しげに這うさそり座が、魅惑的なルビーの眼をぎらつかせている。「おれの縄張りを侵す不届きものは、だれだろうとこの毒針の餌食だ。オリオンとおなじ運命を辿らせてやるぞ」と、鋏型の触肢で星々を威嚇している。まるで南の夜空を統べる王のように。  そして、西。春に活躍していたしし座もうみへび座もすっかり寝惚けた目つきで空の果てに頭から沈み、交代で優雅に上空へとのぼってきた真珠星のスピカが高潔に光っている。季節を勘違いし、春の大曲線を結ぼうとするかのじょを、うしかい座が息を切らせて追いかけていく――
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