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「こんな夜中なのに、眠れないのかな。もしくはお腹が空いたとか……ああ、きみに話があって来たのかも」
「そんなの、ありえないっ」
ディアナは間髪入れず吐き捨てる。思いのほか冷たく響いたその声に、かのじょ自身とても驚く。夢のような空気は一変し、ばつが悪い、気疎い空気のとばりが落ちる。
(どうして……ついさっきまで、かれと心が繋がったような気がしていたのに。いつもそう。わたしはすべて台無しにしてしまう。ああ、どうして何もかも平穏無事のままでいられないのだろう、その場にふさわしい立ち振る舞いを、少し考えたらわかるはずなのに……ああ、どうして、どうして――)
取り返しのつかない、切ないもどかしいきもちに囚われ、身動きがとれないでいるディアナを、ヴラドは毅然としたようすでみつめていた。ふと、辺りが暗くなった。地上の凪とうらはらに天上は風が強く吹いていた。細く引き伸ばされた雲が、薄い月をすっぽり覆い隠してしまったのだ。それに伴い、ヴラドの瞳は輝きを増していくようだった。まるで月の明るさと相互作用が働いているように。神妙な、深みのある琥珀色の瞳。
「ディアナ……寒いかい? 風邪をひいてしまうよ」
ちいさく震える肩に、ヴラドは自身のマントをそっと掛ける。かれの鉤爪の指先はかのじょを抱きしめようと幾度か逡巡し、けっきょく引っ込めてしまった。かわりに一歩だけ近づいた。触れなくても、体温を感じていられる距離。
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