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幸せ卵は恋をする。
小学生の頃。私はお母さんの妹である満穂叔母さんのことを“魔女”だと思っていた。
念のため言っておくと、それは悪い意味の魔女ではない。
怖かったからとか、化粧がケバかったからとか、異常なほどの美人だったからとかでもない。
彼女は魔法を使う力があると、私が本気で信じていたからだ。
『叔母さん、叔母さん!今日はかくれんぼしよう!』
『わー、待って待って夏奈ちゃん!置いていかないでー!』
満穂叔母さんはお母さんよりかなり年下だったこともあり、私にとっては叔母さんというよりお姉さんに近い人だった。
近所に住んでいたこともあり、小さな頃は特によく世話になったように思う。お母さんとお父さんは共働きで忙しく、どうしても帰るのが遅い日などは、彼女が家に来て夕食を作ってくれることも珍しくなかった。
学生時代にバレーボールをやっていたという叔母さんは非常にパラフルな人で、外遊びに付き合ってくれることも少なくなかったように思う。そして、子供の扱いが抜群にうまかった。近所の子供たちと遊んでいる時、保護者として一緒に参加することも多かったのだが。彼女はすぐ、子供たちの集団にも溶け込んだし、少年少女達に慕われていた。
遊びに全力で付き合ってくれて、子供たちを褒めるのが各段に上手かったというのが大きいのだろう。
それも一種、魔法のようなものだと思っていた。どれほど空気が悪くても、みんなが落ち込んでいても喧嘩をしていても、叔母さんが来るとあっという間に雰囲気が明るくなってしまうのだ。それに。
『うわあああああああああん!痛いよ、痛いよ、ふえええええええええええ!』
子供の一人が転んで大泣きした時も。彼女はお決まりの呪文で、簡単に泣き止ませてしまう。
『痛いの痛いの、とんでけー!』
『……あれ?へいきになった……』
『でしょう?さて、傷口をざっと洗って絆創膏を貼ったげる。そしたらまたみんなと遊びましょ。泣いてたらつまんないでしょ?』
『うん!』
痛いのとんでけ、の呪文なんて本当は効果がないって、みんな知っているはずである。そんなことを言ったって、怪我がよくなるわけではない。それなのに、叔母さんが言うと、本当に痛くなくなるような気がするのが不思議だった。
だから、私にとって満穂叔母さんは魔女だった。
みんなをまぶしく照らしてくれる、太陽のような白い魔女だったのだ。
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