い、まだ足りない。

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 そんな事か、と興を削がれた表情をしているそれはまたメモを取り始めている。俺の悪口でも書いてるのだろうか。 「どうやら上の組織がこの星を宇宙文化遺産にしたいらしくてですね。それに伴ってこの星で今最も力を持っている貴方達ヒトの胃を保存したいって言い出してですね……」 「へえ~。この星が遺産になるのか。そりゃおめでたい事だな。それで何で胃袋なんだ?」 「さあ……そんなの分かりませんよ。博物館に展示したいのか、培養して食用にするのか、それは上の組織次第ですね」  宇宙人が博物館なんて物を催しているのは驚いたが、疑問は尽きないままだ。 「私達にもノルマがあるんですよ。この星が太陽と呼ばれる天体を一周するまでに、百個集めなければならないんです。拉致でもすればすぐに終わるんでしょうけど、なるべくヒトの自由意志に委ねたくて、こんなに遅くなってしまいました」  沈黙の時間が、しばらく続いた。  太陽が地平線に沈もうとしていて、電波塔から『良い子は帰りましょう』とアナウンスが入る。周りの子供達や親達は一輪車や二輪車、スコップやバケツを所定の位置に返して、それぞれ帰路に着いていく。見えるのは高校生の集団が丘の上で喋っているのと、ここから少し離れたベンチで二個入りのアイスバーを持っている一人の少女と、隣の宇宙人だけだ。共通点はないし、もう二度と出会う事も無い。 「……俺が記念すべき百個目の胃袋なのか」 「……だから嫌なんですよ。最後の一個はインパクトある胃袋にしたいじゃないですか。でもこの機会を逃せば、締切ギリギリの私が助かりませんし」  どうやら俺は、物凄く失礼な事を言われているらしい。それでも怒る気になれないのは、恐らくそれが抱える事情や思いを表面だけでも触って、理解したからだろうか。俺らしくない、と思う。
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