い、まだ足りない。

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 俺が大切な胃袋を宇宙人に提供しようと決めたのには深遠で壮大な理由があるからだ。何かを成し遂げようと決意した時、人は往々にして何かを犠牲にする物だ。決して自分が無職でギャンブルの借金を返しきれなくなったとかでは無い。決して。  宇宙人が地球にいるなんて、俺は露にも思わなかった。確かに宇宙規模で考えれば何処か遠い所で存在くらいはすると思ってはいたが、まさかこんな辺鄙な公園で目の当たりに出来るとは、人生何でも生きてみるものだと思った。  裏の闇サイトで見かけた求人から電話をかけ、簡単な質疑応答を行い今日に至る。単純に貰える金額が高かったのもあるし、『可愛いエイリアンが優しく受け答えしてくれます!!』なんて児戯じみた馬鹿広告を見て面白そうだと感じたのだ。 「広告詐欺だな。優しい受け答えって何だったんだよ」 「どんなに貴方が無礼な態度を取っても怒らないだけマシだと思いますが」  ツンとした態度は、まさしく俺が想像していた宇宙人そのもので逆に面白みが無かった。一個千円のみかんを食べて不味いと笑い飛ばしたり逆に美味しさに感激するのではなく、ああ千円の味だなと達観する感覚に似ていた。  地面にはさっき零したコーラを求めてきたのか蟻の大群がいた。足の裏で潰してやろうかと左足をあげると、睨む視線を感じて渋々やめた。 「私達基準でも最低な行為ですね」 「人間基準だと最高な行為かもよ?」 「……周りの人達を見て下さい」  それから視線を離して周りを見回すと、五歳位の子供やら親子が俺を見て、ヒソヒソ話をしながら離れていく。ボロボロの服と何ヶ月も剃っていない無精髭を見れば浮浪者だと思われても仕方ない。実際の俺には偉大な目標があるので、彼らは致命的に人を見る目が無いと言う事になる。 「どうやら貴方はヒト目線で見ても屑らしいですね。軽蔑の目線が凄かったですし」 「お前みたいな宇宙人でも感情の機微とか分かるんだな」 「寧ろ私達の方が感情には詳しいですよ。貴方達の文化レベルとは、桁が十個は違いますね」  誇らしげな様子で俺にドヤ顔を披露する。彼女のさっきまでの無表情とのギャップに驚いたが、感情がある事が分かって少し面白い気持ちになった。つまり暴言を言えば大小こそあれどという事だ。この収穫は大きい。 「なあ、さっき言ってた事を掘り返す様で悪いんだが、一つ質問いいか?」 「可愛いエイリアンが優しく受け答えしてあげますよ。どうぞ」 「これもさっき言ったけど、優しい受け答えなんていつしたんだよ……」 「可愛いエイリアンの部分を否定しないのは、ちょっと嬉しかったですけどね」  質問を無視して、少しはにかんだそれが、本当に嬉しそうにしていて調子が狂う。 「それで質問って何ですか?」 「ああ、百個目の胃袋って言ってただろ?そんなに集めて何するんだろうなってさ」
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