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泣きながら私が叫んだら、ママはハッと顔を強張らせたけど、すぐに鬼の顔に戻って「そうだとしてもどうして最後の家族写真に火をつけたの!悪いことだってわかるでしょ!」と怒鳴った。
写真に火をつけることは悪いこと。それはわかってる。
でも、必要なことだった。
だから私はママに負けない声で怒鳴った。
「だってパパに会うためだもん!」
さとし君と、宝物のお話をしている時に教えて貰ったんだ。
『え、まゆの宝物って写真なの?』
『うん!パパと撮った最後の写真なの』
『なんで最後なの?』
『パパはお空に行っちゃって会えないから』
『お空に行ったら会えなくなるものなの?』
『わかんない。ママがそう言ってたから。お空に行ったら会えなくなるって。だから最後に撮った家族写真を大事にしてねって。パパがまゆを見守ってくれるから大切にしてねって』
『でも、会いたいんだろ?』
『……うん、会いたい』
『じゃあ、お盆だから迎え火をすればいいじゃん』
『迎え火?』
『うん。ばあちゃんが言ってたんだ。お盆の日に焚火をすると迎え火って言って目印に火を玄関の前で燃やすんだって。そしたらお空に行った人が会いに来てくれるって。大事なものをお供えしたら必ずくるって言ってたから、やってみたら会えるんじゃないかな?あ、でも子どもは火で遊んじゃダメって言ってたからダメか。……あれ?でも遊ばなかったらいいのかな?わっかんねぇけど、迎え火ってのをしたらまゆのパパにも会えるんじゃないかな』
――だから大事にしていたパパとの写真に火をつけた。お供えって何かわからないけど、大事なものはこの写真。つまり、大事なものに火をつけたらいいってことでしょ?
ママは一瞬目を逸らしたけど、すぐに私を見て息を吸いこんだ。
「パパはお空に行っちゃったって言ったでしょ!?」
苦しそうだった。パパの話をすると、ママはいつも苦しそうにする。
でも、だから、私は、火をつけたんだよ?
「そうだよ、だから迎え火をしているの!」
私は叫んだ。話を聞いてくれるなら、きっと今だから。
「さとし君が教えてくれたの!さとし君のおばあちゃんがね、お盆の日に焚火をするとむ、むかえび?って言ってお空の上にいる人たちの目印になるんだって!それで、玄関の前で燃やしたら、お空の人が会いに来てくれるって!そしたら、まゆ、まゆ、パパに会えるもん!パパにまた抱っこしてもらうんだもん!そしてお家にずっといてねって、言うんだもん!」
私は一生懸命喋った。
むかえびのことはよくわからないけど、玄関で火をつけたらパパが来るんだって。それをわかってほしくて私は頑張って言った。
「……ママ?」
だけどママは黙ってた。
お口をちょっと開けて、私をじっと見て。
私の話を聞いていなかったのかもと思ったけど、ママの顔を見てそうは思えなかった。
鬼の顔のママはもうどこにもいなかったから。
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