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玄関からよちよち歩きで出てきたあっくんにお膝をペチペチされてもママは動かなかった。いつもなら「あっくんダメよ!」て抱っこするのに。いつもと違うママに私がよくわからなくなっていると、あっくんがお外へ行こうとした。
「あっくん!ダメ!」
慌てて私があっくんを止めるとあっくんが「いやー!」と大きな声を上げて泣き出した。私はこの声が嫌い。うるさいし、頭がワンワン震えて痛くなる。それでもあっくんがいなくなるのはもっと嫌。あっくんは上手に歩けないから一人で外に行っちゃダメって、ママがいつも言っているから。
「いやー!あああああー!」
あっくんが手足をばたばたして私の手から逃げようとする。
お腹とかほっぺに当たって痛い。でも、あっくんがいなくなるのは嫌だから。ママがいつも言ってるもん。1人でお外に行ったら、迷子になってそのままお家に帰れなくなっちゃうって。だから、だから――
「まゆ」
ママの声が傍から聞こえた。顔を上げたらママの顔が私の上にあった。ママは今にも泣きそうな顔で私の頭の上から手を伸ばして嫌がるあっくんを抱き上げた。ママに抱っこされたらあっくんは泣き止んで、ママの胸にすっぽりと顔を埋めてた。いいな。私も甘えたいな。
「ごめん。ママが悪かったわ」
ママが私に謝った。
「……!じゃあ」
「でも、火をつけるのはダメ」
頭の中で、ぐあんって大きな音が鳴った。
じゃあどうしてママは謝ったの?
私の話をわかってくれたなら、火をつけたいって思うのが当たり前じゃないの?
「ママはパパに会いたくないの?」
ママとパパは仲良しだった。だからママだって会いたいものだと思ってた。でも実は違うのかな?パパとママの仲が悪いからパパはお空にいなくなっちゃったの?私が泣きそうになっていると、ママは首を横に振って「ううん、会いたい」って言った。
ホッとしたけど、それじゃあ何故火をつけちゃダメなのかわからなかった。会いたいなら、どうして、火をつけちゃダメって言ってるママが泣いてるのか私はわからなかった。
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