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ママは鼻をすすると「あのね、まゆ、ちゃんと聞いて」と、息を吸いこんで、吐いて、吸って、私を、見た。
「パパはね、死んじゃったの」
死んじゃった。
その言葉は知っている。
絵本でお話を読んだことがあるよ。
豚さんのお鍋に入った狼さんが死んじゃっていなくなったってお話。死んだらもう豚さんの前に出てこなかった狼さんのお話。
「パパはね、車と車でぶつかってね、頭を強く打って、死んじゃったの。交通事故で、死んじゃったの」
死んじゃった。
車とぶつかって死んじゃった。
幼稚園の先生が言ってた。
車にぶつかったら大きなけがをして遊べなくなるって。
下手したら死んじゃってもう皆に会えなくなっちゃうって。
パパは、車にぶつかって死んじゃった。
だから会えなくなる。
遊べなくなる。
お空に行ったんじゃなく、死んじゃった。
……死んじゃ……た。
「……もう、会えない?」
「うん。死んだっていうのはそういうことなんだ」
「まゆが悪い子だからお空に行ったんじゃないの?」
「うん、違う。パパはまゆのこと大好きだった」
『まゆ』
パパの優しい声が私は大好き。
大きな手で私を高い所まで持ち上げて遊んでくれるパパ。
眼鏡を触った時に怒るパパは怖いけど、泣いている私を抱きしめて頭をなでなでしてくれるパパは大好き。
にっこり笑っておでこにチューしてくれるパパが大好き。
まゆが食べたいぐらい好きだよって言ってくれるパパが、パパが。
「むかえびをしてもパパはここに来ない?」
「うん、これない。死んじゃったから」
「まゆがお空に行っても会えない?」
「うん」
「泣いてても抱きしめてくれない?」
「うん」
「ただいまって、ギュって、チュって、してくれない?」
「うん」
「いい子いい子って、頭をなでなでしてくれない?」
「……うん」
「大好きって、笑ってくれないの?」
「……っう゛ん゛」
「もう……ずっとずっと会えないの?」
「……っ……ッ」
ママが泣いた。
私も、もう、喋れない。
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