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密室
後頭部に痛みが走り、思わず体を起こした。
真っ白な天井に蛍光灯、それぞれの壁に木製の扉、中央にテーブルが置いてある。
真正面の壁にかかっている時計は一時をさしている。
背後には穴の空いた球体があった。
球体は壁を貫通し、欠片と思われるものがそこら中に散らばっている。
「おはよう、気分はどうかしら」
ジャージを着た同年代くらいの女性が立っていた。
にこやかな笑みを浮かべ、こちらを見ている。
ここはどこだろう。自室で眠っていたはずだ。
「あなたはそこの卵から生まれてきたの。
私もそうよ、あの卵から生まれたの」
彼女は後ろにある球体を指さした。
ゆっくりと立ち上がり、球体を触った。
しゃがんで穴を覗くが、中には何もなかった。
「たったひとつの細胞が何度も分裂して私たちは生まれた。
素晴らしいと思わない?」
女は歯を見せて笑う。
それはまちがいないだろうが、卵から人間が生まれるわけがない。
両親の顔も祖父母の顔も覚えている。
この部屋に来る前のことも覚えている。
しかし、どうやってこの部屋に来たのか。
それが分からない。
テーブルの上に紙が置いてあり、手に取った。
『ママが来る前に脱出せよ』と書かれており、その下に見取り図が書かれてあった。
この部屋を中心に北に宝物庫、西に書庫、東に寝室がある。
南に面会室があるが、卵で塞がっている。
卵を割れば面会室に行けるだろうか。
「しばらくしたらママが来るから、ここで待っていないといけないのよ」
ママは彼女の母親ではなく、卵を産んだ人である。
部屋を潰すだけの卵を産む生き物なんて、想像もつかない。
一時間後に迎えに来てくれるから、いい子にして待っていないといけない。
他の部屋に入ってはならず、言いつけを守らない子は厳しく罰せられる。
「これからパパのところに連れて行ってもらえるの。
パパはすごいんだから。宇宙のことなら何でも知ってるのよ」
パパは仕事熱心で、おうちに来ることは滅多にない。
しかし、この部屋で待っていても脱出はできない。
とにかく、ママが来る前に何か手がかりを見つけなければならない。
まずは書庫を探すことにした。
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