書庫

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見張り役なのか、彼女は後ろからついてきた。 書庫は三方の壁を埋めるように本棚が並び、中央のテーブルにはメモとランタンが置かれている。 『私の癒しはここにしかない』 ランタンの火がゆらゆらと揺れている。 背表紙はすべて日本語で書かれていて、ファンタジー小説ばかりだ。 幼い頃に読んだきりで、内容はほとんど覚えていない。 彼女は本に圧倒されたのか、目を見開いたまま一言も喋らない。 本棚にあったひと際小さい本を一冊手に取った。 『宝物庫の暗証番号:1014』 日記の中にメモがはさまれていた。 最初の部屋にあるメモと筆跡がよく似ている。 「ねえ、他の部屋に行ったらダメなんだよ。 実験の邪魔になるってパパがいつも言ってるんだから。 早く戻らないと」 腕を引っ張ってくるのを無視して日記を読み続ける。 『私はこの世界に囚われていて、逃げ出すことができない。 卵をいくら産んでもやめさせてくれない』 『誰も私の話を聞いてくれない。私は孤独だ』 『要望さえ出せばどんな道具も取り寄せてくれる。 私はもう疲れた。今日で終わりにする』 『信じられないことが起きた。すべてが元に戻っている。 時間が巻き戻っているとしか思えない』 横から彼女が眉をひそめて、のぞき込んでいる。 「ママってばこんなものを書いていたのね。 全然知らなかったわ」 あのメモや日記はママが書いたものらしい。 彼女は産まれてから他の部屋に行ったことがない。ママが迎えに来るまであの部屋で待っているように言われているようだ。 「……実験の邪魔になるからって言われたから、みんなで全部捨てたのに。 まだこんなに残っていたなんて、どうなっているの?」 余計なことを考えさせないようにするために本を全部捨てたらしい。 卵から産まれた子どもたちはパパのところにいて、ここに来ることはめったにない。 彼女は卵から産まれた新しい子を迎えるために、ここで待っている。 パスワードを何度も頭の中で唱えながら、宝物庫へ向かうことにした。
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