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宝物庫
この部屋はひときわ明るく、綺麗にされているように見える。
部屋の壁に背丈と同じくらいのダイヤル式の扉が埋め込まれ、メモが貼られていた。
『宝物がある場所にママは向かう。
ママは宝物を誰よりも大事にしているから』
卵から産まれた子どもよりも先に宝物を探しに行く。
一体、どんな母親なのだろう。顔が見たくなってきた。
「まさか、私たちよりも大事なものがここにあるっていうの?」
彼女は信じられないと言わんばかりにダイヤルを凝視している。
寝室で見つけたパスワードを入力し、扉を慎重に開けた。
中にはナイフや金づち、ロープが入っていて、どれも赤黒い汚れがついている。
メモにあった取り寄せていた道具はこのことだろうか。
寝室のメモによれば、申請すれば道具を持ってきてくれた。
しかし、パパや彼女はそれらをほぼ処分した。
『何度やってもだめだった。必ず時間が巻き戻される。
私は卵を産むしかないの?』
ところどころ赤黒いシミがついたメモが置かれていた。
ママはこの道具を使って何をしようとしていたのだろうか。
相当苦しんでいることくらいしか分からない。
目的の分からない実験のために卵を産み続ける。
本当に何を考えているのだろう。
彼女は扉から一歩も動こうとせず、道具に近寄ろうともしない。
自分たちで片付けたものが元に戻っているのだ。触りたくもないもだろう。
「ママは宇宙の真理なんて知らなくても幸せになれるって言ってた。
むしろ、それを知ることで人間じゃなくなるんだって。
世界を救うための実験なのに、どうしてそんなことを言うんだろう」
産卵シーンなんて想像もしたくない。
人類が卵から産まれたところで、何がどうなるというのだろう。
余計にグロテスクになるだけだ。
「ママ……」
彼女はぽつりとつぶやいた。
卵から子供たちを生み出すことで、実験体を得ることになる。
彼女は実験は宇宙の真理に触れられる素晴らしいことであると言っている。
ママは実験は何の役にも立っておらず、今すぐにでもやめるべきであると言っている。どちらが真実なのだろう。
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