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あの花の形を自分で壊してみた時に似た感情が沸き立つ。
君の両肩を押せば、重さなんて感じないかのように簡単に倒れた。君の目が驚きによって開かれていく様子が、柔らかそうな髪が衝撃で揺れる様子が、スローモーションのように僕の目に焼き付いた。
ドスンと鈍い音が鳴る。君が痛みでうめいた声がする。
これ以上時間が、進んでほしくない。
ここへきて生まれる欲望が、きっと僕の本質なのだ。そしてそれを叶える方法を僕は知らない。
朝日が一番高い所へ昇ることを止められないように。
あの氷が水に溶けるのを止められなかったように。
花が咲き続けられないように。
欲しいと思った感情が両手に宿り、君の細い首をとらえる。願いが力に変わって両手が伝えてしまう。
止まれ、止まれ、止まれ、止まれ、止まれ、止まれ!
「い…やだっ!!!」
絞りだした君の声に、全身が粟立って手が止まった。いつのまにか組み敷いていた君の顔が下にあった。
ぜえぜえと苦しそうに呼吸を繰り返し、静かに涙を流している。
「…………」
「はあ……僕だって!!」
「え?」
「君が満たされないことが、僕がこの世で一番『美しい』と思えることなのに!!」
「……は?」
突然声を荒げた君は、髪を振り乱して泣き叫びながら僕を見た。
ぶつけられた言葉は、なんと言った??
「このままずっと、最期まで君を見ていくことが僕の唯一なんだ!!なのに君は、満たされたって、そんな!!」
見開いた目の奥は揺れている。ジタバタと四肢で地面を叩き、取り乱していく。
「……嘘だよね?君はあれからずっと、探していたじゃないか」
「だって、僕は……僕は、あの時かけてくれた君の言葉が、すべてを満たしてしまったんだ……」
「!?」
まるで罪を告白するように落とされた言葉は、とても頼りなかったが、君の表情をさらに歪ませてしまった。なんだかとても悲しい気持ちになる。
「僕が『美しい』を見つけるたびに、瓶があふれて……ずっと……あふれて、止まらないんだ……」
懺悔する僕から落ちる涙がポタポタと君の頬を濡らした。それはまるで僕の瓶からあふれる何か。
「……君は、それでいい。この先ずっと、僕でその瓶を満たしていけばいい。君はずっと僕であふれていけばいい。僕が死んだら、ふたをして?」
「……」
「僕が満たされるまで、ここにいて。君で僕を満たして??」
僕の方へ腕を伸ばして縋るように見つめる君を見て、また『美しい』と思った。
きっと、僕の『美しい』はずっと刹那的にこの人生に湧き上がるのだろう。
君が満たされるまで、僕の瓶はずっと注がれる。
“『君』に溺れて迎える最期は、きっとなによりも『美しい』のだろうな。”
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