魔王の私と勇者の部下

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響き渡る悲鳴 逃げる子分の姿 胸を貫く、その刃の感覚をー…… 私はよく覚えている **** 「お疲れ様でーす」 「はい、お疲れ様」 人の気配が消えていく。 自分の仕事をしながら、後に入る新人のためにマニュアルを作成し、一息つく。 熱中するとすぐこれだ 定時の時間はとっくに過ぎていた。 「そりゃ皆帰るよね」 伸びをして立ち上がり、オフィスから出る。 ガラス張りの会社はなんか今どきのデザインで……そこにうつる自分のショートヘアと金色のピアス。悪くない、整ってる、でも人生つまらなそうな顔。 胸元にはリーダー社員、樋口れいかという文字。 別に何か才能があったというわけでもなく 勤めてこつこつやってたら昇級して今に至る。 平凡な毎日だ、本当に。 いつまでも自分をみてても仕方ないので 会社のコーヒーメーカーから無料でコーヒーを紙コップにため、水筒に移しかえる。 すると 「あ、樋口さんまだ残ってたの ごめんだけどここのファイル片付けてから帰ってもらっていい?押し付けてごめんね」 声をかけられた。 「……あぁ……いいですよ」 反応が遅れたのは、嫌だったからではない。 未だに樋口さんと呼ばれてもれいかさんと呼ばれてもしっくりこないのだ。 もうこの名前がついてから32になるというのに、馴染めていないから。 「ハァ……」 いい加減忘れたい、過去の記憶ー……。 いや、厨ニくさいことを言わせてもらうと前世の記憶。 何度も精神科には行った 私は自分にあれこれと設定をつけたし、現実逃避しているだけなのだと けれどなんでか、どうしても 以前の私はー……私の呼ばれ方は 『サタン』 『魔王』 だった気がするんだよな。 いやいや、ひどいあだ名とかじゃなくて ガチなやつで。 「…………明日新人うちの部署にくるから……これだけでいいよね そうだ筆記用具もそろえといてあげないと」 ファイルを片付けたあともすることを思い出してダラダラと残る。 意外とこの時間が好きなのだ(残業手当を求めてわざとだらだら残るのはいけないことなんだけど) 皆がいないほうが集中できる 皆といても、私は孤独だった。 ……誰かに脳内を見られることがなくてよかった 小学生がノートのすみに書いた痛い設定のようなものが脳内にはりつき 社会人になってまで定期的に浮かぶ そのせいで、周囲と本当の意味で馴染めない。 透明の壁のようなものを感じる。 これはもういっそ小話にして小説投稿とかしたほうがいいんだろうか。そしたら脳内にあるものが吐き出されるだろうか いやだいやだ センスある人ならともかく素人がやったら誰からも反応されないに一票、反応されても、え、その年齢でこれ書いたんですか…?可哀想…と反応されるに一票だ。 もういい、私は一生こうなんだろう ありもしない記憶に悩まされて 振り回されて この世から浮いた感覚のまま。
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