不思議なこと

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不思議なこと

 ユウくんとミスズちゃんのケンカの原因は、彼女が別れたいと言い出したから。 「どうして、ミスズちゃんはユウくんと別れようと思ったのかな?」  思っている疑問を素直に聞いてみた。 「わかりません。何度聞いても答えなかったんです。もしかして、他に好きな人でもできたのかと……」 「そんなことないと思うわ」  私には思い当たることがあった。なぜミスズちゃんがユウくんと別れようとしたのかを。  あんな経験をしたのだから、よく分かる。 「ミスズちゃんは病気のことがあったから、ユウくんと別れようとしたのよ。きっとそうよ」 「病気のことがあったから?」 「あんな残酷な病気を抱えて生きてきて、もう限界だったんだと思う」  自然とこんなセリフが出てきた。  そしてまた、あれが起こった。 (ユウを救ってあげて……。ユウを私から開放してあげて……)  私の頭の中で、またあの言葉が流れてきたのだった。 「ねえ、杉並さん、どうしてミスズは僕に病気のことを打ち明けてくれなかったのでしょうか?」 「ミスズちゃんは普通の女性でいたかったんじゃないかな。ユウくんにぴったりな、どこにでもいる普通の女性で」  なぜか、自動的にこんなセリフが出てくる。誰かに喋らされている感覚だ。 「それに、私、もう杉並ではないのよ」 「えっ?」 「職場にはまだ報告してないけど、私、離婚したの。だから名字が変わったの。田中、私の名前。どこにでもある普通の名前でしょ」  誰?  私は自分に問いかける。  私を喋らせているのは誰なの? 「だったら」  ユウくんはグイッとワインを飲みほした。 「だったら田中さん、僕とお付き合いしてくれませんか。もちろん結婚を前提にして」  あまりに突然の申し出に、私はワイングラスを落としそうになってしまった。手が震えてきそうだったので、慌てて小さな台にグラスを置いた。  そしてこう自分に言い聞かせた。  私は別れ話をしにきたのだから、しっかりとユウくんの申し出を断らなくては……。 「ユウくん、そう言ってくれるのはうれしいけど、あなたは決して私のことが好きではないよね。あなたは、私ではなくミスズちゃんに改めて告白しているだけなのよ」 「……」 「私はミスズちゃんではないし……」 「そんなことは分かっています」 「あなたより6歳も年上だし……」 「それが、どうしたというのですか」  若いからだろう。ユウくんが真っ直ぐに迫ってくる。  でも、私の秘密、それだけじゃないの。もっと重要なことがあるの。 「それに私……」 「何ですか?」  思い切って言うことにした。こういうことははっきりとさせておかないとと思ったのだ。 「……私、子供が産めない体なの。そんな私と結婚して幸せになれるの? 子供がいる家庭を築けないんだよ」  言ってしまった。  前の夫ともこれが原因で関係が悪くなったのだ。  みんな期待していた。  元夫も、元夫の両親も、私の両親も……、そして私も……。 「そんなこと……」  ユウくんは言葉につまる。  そんな困った様子のユウくんを見て、彼の反応は当然だと思う。  こんな重い話を急にされても、どう答えていいかわからないはずだ。  でも、よかった。  これでユウくんは私から離れていくはず。  そう思ってたとき、ユウくんの体が私に近づいてきた。  そして、その腕が私の体に巻き付いてきた。  私は金縛りにあった子鹿のようになってしまった。  そして私はそのままユウくんに押し倒されたのだった。
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