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ユウくんのせいじゃない
「その布団の中に、僕も一緒に入れてもらえませんか?」
暗闇の中で、ユウくんは間違いなくそう言った。
どうしよう。
何もしないと約束してくれたよね。
「だめですか?」
ユウくんの声。
「だめじゃないけど、でも一線を超えることはできないわよ」
私ははっきりと言う。
そりゃそうだ。私は結婚しているし、それに……。
ユウくんが興味を持っているのは私ではないのだから。
ユウくんは、私のことが好きなのではなく、私にそっくりなミスズちゃんのことを忘れられないだけなのだから。
そんな時、またあれが聞こえてきた。
(ユウを救ってあげて……。ユウを私から開放してあげて……)
ユウくんを開放……。
「おいでユウくん。布団に入ってきて」
そう言って私は布団をめくった。
このパジャマ、昨日から洗ってないのだけれど。
ユウくんは床から立ち上がり、そっと私の布団に入ってきた。
床で寝ていたからだろう、体が冷えきっている。
「ねえ、ユウくん、私をミスズちゃんだと思ってギュッとしてくれる?」
「ええ?」
「ミスズちゃんだと思ってギュッとして」
ユウくんの腕が私の体に巻き付いてくる。そして私たちは密着した。
「ねえユウくん、ユウくんはミスズちゃんを殺したのは自分だと思っているのでしょ?」
「……はい」
「でも、それは違うよ」
「……」
「私は今日、はっきりとわかったの。ミスズちゃんがなぜ死んだかを」
「なぜですか?」
私には分かる。ミスズちゃんがなぜ死を選んだのかを。今日の、私の体験がすべてを教えてくれていた。
「病気よ。病気がミスズちゃんを殺したのよ。原因は病気なの。原因はそれだけよ」
私も自分の腕をユウくんの体にからめた。
「お母さんが言っていたでしょ。ミスズは気分が動く病気だって。私が今日経験したのと同じ病気だったのよ」
「杉並さんは、どんな経験をしたのですか?」
「死が自動的に頭に浮かんでくる。とても残酷な病気だわ。ミスズちゃんはその病気とずっと戦っていたんだと思う」
「……」
「だから、ミスズちゃんを殺した原因は病気であって、決してユウくんではないのよ」
この言葉でユウくんを救ってあげられるのだろうか?
でも私は自分が経験したことを伝えるしかなかった。
今となってはなんだか不思議な経験だった。そして、おそらくミスズちゃんも同じ経験をずっとしていたのだろうという確信があった。
暗闇の中、私とユウくんはずっと抱き合っていた。
そして約束通り、ユウくんはそれ以上のことを求めてはこなかった。
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