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ミスズちゃんはなぜ
ユウくんと私は、ミスズちゃんの位牌が置いてある仏壇の正面に身体を向けた。
仏壇の前では、私とそっくりなミスズちゃんの遺影が置かれてあり、ミスズちゃんがユウくんと私を不思議そうに見つめているような気がした。きれいな花が生けてある。
お母さんがろうそくに火を灯してくれ、ユウくんがお線香に火をつける。
煙とともに、くすぶった匂いが流れた。
ユウくんが手を合わせ、私もそれにならった。
私が目を開けても、まだユウくんはじっと手を合わせ続けている。じっと手を合わせながら、心の中でいろんなことを報告しているように見えた。
ユウくんが私をここに連れてきた理由、ぼんやりとだが分かった気がする。
あまりに私がミスズちゃんと似ているので、お母さんに合わせたかったのだろう。お母さんに、ミスズちゃんと瓜二つの人間が、こんなところで生きていると教えたかったのだろう。でもそれって、どうなんだろう。お母さんが、そっくりな私と会ったとしても、単にうれしいと喜んでくれるような単純なことには思えない。きっと複雑な気持ちで私を見ているに違いない。
「品川さん、今日は聞きたいことがあってここにきました」
ユウくんは改めて先程も言ったセリフをもう一度言った。
「なんですか?」とお母さん。
「ミスズさんはなぜ亡くなったんですか? 死因は何だったんですか?」
そういえば言っていた。
ミスズちゃんが亡くなった時、ご家族の意向でその死因を知ることができなかったと。
「聞きたいですか?」
死因を伏せるなんて。私はどうしても悪いことを想像してしまう。
おそらく……。
「はっきりしたことを教えてもらいたくて」
ユウくんは思い切ったことを聞いてくる。おそらく、事前にこれだけは聞くと心に決めてきているのだろう。
ミスズちゃんのお母さんはゆっくりと口を開く。
「ミスズは、薬の量を間違って飲んでしまい、それで亡くなったの」
薬の量を間違って飲んだ?
間違って飲んで死ぬの?
テレビなどで見たことがある。死ぬにはすごい量を飲む必要があるのでは?
そんな量、間違って飲めるものじゃない。
だったら故意に……。
「だから、ミスズは事故で亡くなったのよ」
お母さんは下を向いている。
「ミスズさんは何の病気だったんですか?」
ユウくんはポツリと聞く。
「気分が動く病気よ」
「気分が動く?」
「ええ。その病気を治すために、いろいろな薬を飲んでいたの」
ユウくん、病気のこと、ミスズちゃんから聞いてなかったのかな。
だとしたらミスズちゃん、言えなかったんだ。
でも、気分が動く病気ってなんだろう。
精神的な病気なのかな。
ユウくんはそれだけのことを聞くと、じっと黙り込んでしまう。
お母さんがお茶を持ってきて言葉を足した。
「ミスズが亡くなった当初、あなたを傷つけるような態度をとってしまったかもわかりません。でも話した通り、ミスズは事故で亡くなったのです。だから、優斗さんは何も気にすることはないのです」
「……」
「でも、今日はびっくりしたわ。突然に優斗さんが来たかと思えば、その横にミスズとそっくりな人を連れてくるんだもの」
「失礼なことをして申し訳ありませんでした」
「いいえ、嬉しかったわ。まるでミスズが生き返ったように思えたから」
そんな話が一段落すると、ミスズちゃんのお母さんはお茶を私たちの前に置いた。ユウくんはお茶には手を触れず、じっと仏壇の写真を見続けていた。ほとんど会話のない状態が続いた後、「では、これで失礼します」とユウくんは言い、その場から立ち上がった。私は正座で足がしびれてしまい、ふらつき倒れそうになり、そんな私をユウくんはしっかりと支えてくれた。
そして私たちはミスズちゃんの家を後にした。
どんよりとした雲がたれる空の下を歩いている時、ユウくんはつぶやいた。
「やっぱりそうだったんだ」
「ええ?」
「やっぱりそうだったんだ。ミスズは僕が殺したんだ」
ユウくんは確かにそう言ったのだった。
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