線香花火が消えるまで

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 わたしの右手に付けた赤いデジタル時計はダウンジャケットの袖で隠れている。付き合っていたときに、二人で行った雑貨屋で見つけた赤と青のお揃いのもの。それを付けているときだけは、宏人の恋人でいられる証のように思えた。  宏人と別れたのは去年の秋頃。彼は東京の私立大学に進学を希望していた。  夏休みの終わり、二学期が始まる前に彼から言われた言葉があった。 「お互いの受験が終わるまでは、連絡をするのはやめよう」  今はクラスも別々で連絡を取り合わなければ接点も少ない。わたしはその提案に頷いた。それなのに、ふと自室で勉強をしていたときに彼の顔が浮かんできて、どうしてもその寂しさに耐えられなかった。  わたしは宏人にラインを送り、電話をかけてしまった。優しい彼はそれに応えてくれた。そこでやめておけばよかったんだ。  その日から少しだけ話したくて電話をするようになってしまった。五分が十分に、十分が三十分に。  それが一週間続いたとき、彼は真剣な声でこう言った。「もう別れよう」と。  わたしが悪い。それはわかっていた。でも、でも、別れるなんてあんまりだ。 「ずっと考えてたんだ。朱里(あかり)とはこの先会えなくなる可能性がある。俺が東京へ行くことになれば、遠距離にもなる。そうなったらやっぱり辛いと思うんだ。今ここで別れなきゃ、俺たちダメになるよ。今はなによりも受験に意識を向ける必要がある」  そんなことを言われて、わたしは泣きながら無理矢理自分を納得させた。
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