「white season ~冬~」(7)

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「white season ~冬~」(7)

 お風呂から出て部屋に行き、携帯電話を見ると裕弥からの着信履歴があった。彩菜が折り返しかけてみると、寝ぼけたような声の裕弥がでた。 「ごめん、もう寝てた?」 「いや」  裕弥はこたえたけれど、実は彩菜の電話で目を覚ましたところだった。インターネットカフェから帰る道すがら、なんとなく彩菜の携帯に電話した。呼び出し音を聞きながら、「忙しい大晦日にでられるわけないか」なんて淋しい気持ちになって電話をきった。  部屋に戻った裕弥はずっしり重たい疲労を感じて、服を着たままベッドにもぐりこんだ。そして今の彩菜の電話で起こされるまで眠っていたのだ。時計を見ると十一時半をまわっていた。  好きなサッカーチームの特番が既に始まっていることに気付いたが、自分がきちんと録画予約をしていて録画のランプがついているのを見てホッとした。ひょっとしたら今日は実家に泊まることになるかもと思い、出かける前に録画予約をしていたのだった。そんな今朝の心境を思い出すと、裕弥はまた気分が沈んだ。 「ねえ、裕弥」  彩菜が明るく言う。 「ん?」 「一緒に初詣行かない?」 「初詣?」 「うん。近くの神社でいいから。裕弥と出会ってから初めてのお正月だもん。一緒に行きたいな」  返答に詰まった裕弥に、彩菜は不安そうな口調になる。 「あ、なにか他に予定入っちゃってる?」 「ううん」 「じゃ、行こうよ」  お正月も神社も神様もどうでもいいような気分になっていた裕弥だったが、彩菜の声を聞いているうちに心が和んできた。 「……行こうか、初詣」 「うん! 嬉しいな。楽しみ! あっ!」 「なに?」 「裕弥、テレビ観てる? 紅白歌合戦」 「ううん、観てない」  とこたえながら裕弥はリモコンでテレビをつけた。 「白組圧勝だよ」  テレビ画面は紅白歌合戦のエンディングに入っていた。 「ホントだ」 「こんな圧勝なのって珍しいよね」 「そう? 毎年観てるわけじゃないからわからないけど」 「そうなの? いつもは何を観てるの?」 「その時によって違うかな。なにも観ない時もあるし」  裕弥はテレビを消して、部屋の窓を開けた。そろそろ聞こえてくるはずだ。外は新しい年を迎える神聖な空気に満ちているように感じられた。裕弥はふと空を見上げる。 「裕弥?」  黙っている裕弥に彩菜が声をかけた。 「あ、ごめん、月が。今、窓開けて見上げたら月がきれいだったから」 「ホントに?」  彩菜は言って、部屋の窓を開けて空を見上げた。 「月、見えないよー」 「俺の部屋の窓からはきれいに見えるよ」 「わたしの部屋からは見えないー。向きが悪いのかもー」  彩菜の口調がくすぐったかった。ふっと裕弥はやさしい空気に包まれて、彩菜の存在が自分にとってかけがえのないものだと思えた。そしてとてもしあわせな素直な感情に満たされた。 「彩菜」 「なに?」 「こんなふうにずっと一緒に過ごせるといいね」  意外な言葉に彩菜は一瞬沈黙した。 「今回だけじゃなくて、これからもずっと一緒に初詣に行けたらいいね」  電話を握る手にぎゅっと力が入り、彩菜は胸が高鳴ってくるのを感じていた。 「俺、彩菜がいると頑張れそうだな」 「わ、わたしもね、裕弥といると元気になれるの」  裕弥の言葉に深い意味なんてないのかもしれない。でも彩菜には裕弥の言葉が嬉しかった。今年の終わりに最大の素敵なプレゼントをもらったような気がした。  彩菜は目に涙をためながら、月が見えない夜空を見上げた。目を瞑る。涙が頬に零れ落ちた。そして、そっと空のどこかに在るその響きに耳をすませた。  愛も  苦しみも  さびしさも  しあわせも  全部全部包み込んで  ごーん……、と鐘の鳴る音が聞こえた。 <了>
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