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「ちょ、っと……っ待――……っ」
頭を横に振り、フォルカは腰を地につけたまま後ろに逃げようとする。けれど心と本能は、行動とは反対の衝動を叫んでいた。
抱かれたい。この男の欲望を今すぐ受け入れたい。何ていい匂いなんだろう。どうしよう。どうすればこの男に抱いてもらえるんだろう。子種がほしい――。
何を考えているんだ自分は。卑しいことを考えてしまう自分が恥ずかしかった。
「クソっ! おいコラ、逃げんなッ……!」
「やだっ、やだっ」
地面の上で背を向け、ジタバタする。
「こっちだっていっぱいいっぱいなんだよ! いいから早くこっちに――」
大きな手に肩を掴まれた瞬間、後ろに引っ張られた。フォルカは咄嗟に振り返った。生理的な涙でぐしゃぐしゃになった顔なんて、人前で晒したくなんてないのに。
男に掴まれた場所が熱い。そこから伝わった熱が、ぐずぐずになった下半身にダイレクトに襲い掛かる。自分ではどうしようもないほどの欲情に、フォルカの心は決壊した。
こちらの顔を見たガイが、「っざけんな……ッ!」と吠える。フォルカの全身をきつく抱きしめる。全身の血がうっ血してしまいそうなくらい強い力だった。ブチッと肉を噛む音が耳元で聞こえる。耳の後ろからタートルネックの隙間を縫い、首元に生ぬるい液体が流れていくのを感じる。
自分はうなじを噛まれてしまったのだろうか。今日初めて会った見ず知らずのアルファに? でも大丈夫……首輪――自分は首輪をしている。いや、重要なのはそこじゃなくて……ともかく見ず知らずは言い過ぎだろうか。男の名前くらいは、知っている。
「ガ、イ……っ」
それでいいと思った。この男に噛まれたい。
フォルカは互いの心臓の音を聞きながら、全身で痛いほどの抱擁を受け止めたのだった。
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