オメガ王子はごろつきアルファに密やかに愛される

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 激しい後悔と自己嫌悪で頭が痛かった。やってしまった……ともう一度ため息をついた。だがフォルカの声を覆い消したのは、男の 「ため息をつきたいのはこっちだ」  という言葉だった。男はそう言うと、ちらっとフォルカを見たのち、「はあ~」とため息をついた。  ガイはオメガしか入れない店に、バース性を偽って入店していたくらいなのだ。その端正な顔立ちから察すると、相当遊んでいるのだろう。  けれどそこまで後悔するということは、ガイは自分と寝たくなかったのだろうか。自分が王族であることは知られていないはずだ。となれば好みじゃなかった? どっちにしろ、ガイの態度にフォルカはムッとした。  なんとも思っていない相手に振られたような気分だ。心外だった。フェロモンで誘ってしまったのはこちらだが、男の口からため息を聞いて怒りが募る。 「君はこういうことをするために、あの店に通っていたんだろう? 僕も悪かったとはいえ、そういう態度を取られると気分が悪い」 「は?」  ガイは一瞬何を言われたのか分かっていないみたいだったが、言われた言葉を反芻したのか、みるみるうちに「はあ?」と表情を歪ませていった。 「ふざけんじゃねえ。誰がオメガを食い散らかすためにあの店に入るかよ」  ガイはチッと舌打ちし、足元に後悔の視線を投げる。「ったく……こんなはずじゃなかった」と頭をガリッと掻いた。  その言葉にはあ?と思った。それを言われてしまったら、どうしようもないじゃないか。それこそ自分だって、よく知りもしないアルファとセックスをするつもりなんてなかった。だから首輪で自衛していたし、抑制薬だって常備していたのだ。  フォルカはふと、あれ?と疑念を抱いた。抑制薬は鞄の中に入っていたはずだ。昨晩、腰砕けになった自分はガイに薬を取ってきてもらうよう頼んだ。  ガイの濃い匂いに堪らず逃げたが、本能に乗っ取られたアルファの力があれば、自分の抵抗なんて赤子の手を捻るより簡単だっただろう。薬を飲ませることなんて、造作もなかったはずだ。  だがガイはそれをしなかった。薬が手元にあったのに、抑制薬を飲ませてくれなかった。 「だったらどうして薬を飲ませてくれなかったんだ?」  そこまで自分とセックスしてしまったことを後悔するなら、飲ませてくれればよかったのだ。フォルカはガイに詰め寄った。 「バカ。それはおまえが逃げたからで――」 「君ほどのアルファだったら、僕に薬を飲ませることなんて容易くできただろう。それともなんだ、寝てみたら思っていたのと違ったから後悔しているのか?」  ガイは「はあっ!?」と呆れたように怒りの声をフォルカにぶつけた。 「後悔もなにも、もとはと言えばおまえのヒートが原因だろーが! 俺はむしろ――」 「被害者だとでも? あれだけ激しくしておいて?」  うっ、とガイは頭を後ろに引く。痛いところを衝かれたと思ったのか、言い返せないらしい。仕切り直すように「とにかく」と言い、 「俺はあの店でオメガを物色してるわけじゃねえからな。そこだけは勘違いすんなよ」  とこちらに指をさす。 「じゃあどうして薬を飲ませてくれなかったんだ? あのときの君には理性があったのに」  腕を組んで厳しい目を向ける。  ガイは少なくても店から薬瓶の入った鞄を持ってきた時点では、完全に自分のフェロモンにあてられてはいなかったはずだ。その証拠に、途中まではフォルカに薬を飲ませようとしてくれていた。  ガイは言いにくそうに「そ、それは……」と口ごもった。
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