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「そ、そんなわけないだろう! ただ少し訊いてみただけだ!」
急いでハシゴを伝い、下の階に下りる。降り立ったのは二階だったらしく、人の気配がない。空き家なのか、近くにあったドアの隙間から見えた部屋には、家具や荷物といったものは見当たらなかった。昼間だというのに部屋の中は暗く、どことなく湿っぽい。
「表口は閉まってるんだ。帰るなら裏口からにしてくれ」
ガイは屋根裏部屋から見下ろしながら声を降らせると、
「悪いが見送りはここまでだ。気をつけて帰れよ」
と言った。
「言われなくても見送りはここでいい」
世話になった、と一言だけ告げ、フォルカは屋根裏部屋の出入口に背を向けた。
手すりに埃をかぶった木造の階段を駆け下り、リビングを脇目にキッチンへと向かう。リビングはえんじ色のドレープカーテンが部屋を閉め切っていて薄暗い。カーテンは重厚感があり、一目見ただけで立派なものだと分かった。
ルミナス王国の国花を柄にしたソファやテーブルは高級感を漂わせ、フォルカがルミナシエル宮殿にいたときに使っていたものとそっくりだ。壁面に埋め込まれた暖炉の上には、宝石の埋め込まれたいくつもの装飾品がきらきらと薄闇に反射している。
あんなごろつき男の棲む家に、どうしてこんなものが……?
そのときふと、ある疑いがフォルカの頭をよぎった。これらはすべて盗難品じゃないだろうか。それくらい、リビングにある家具や装飾品があの男と不釣り合いだった。
男が完全に悪人だとは思えない。だが、さすがに少し怖くなった。
とにかく深く関わらない方がいいだろう。何もなければ、わざわざ空き家の屋根裏部屋で暮らす必要はない。だけどあの男は住んでいるのだ。まるで身を潜めるように……。
ぶるっと身を震わせる。男が訳ありであることは間違いないだろう。確信すると、ぞわっとした。フォルカは空いた酒瓶が散乱するキッチンを抜け、裏口を目指した。
建付けの悪い勝手口から出て、大通りまで走る。髪の合間を縫って肌の上を伝った汗を拭おうとして、タートルネックに覆われた首筋に触れた。
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