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そこでフォルカはあれと思った。
あると思っていたものが、なかったからだ。
首輪の後ろを触る。指の腹に伝わった感触は、昨晩の行為中にガイによって噛まれた痕だろう。首輪の後ろには歯形がついていた。
あれ? でも昨日確かに噛まれたよな? ヒートで意識が朦朧としていたが、確かに耳元で肉を噛む音がした。てっきり自分の首に、ガイが嚙みついたのだと思っていた。確かに痛みはなかった。ヒートで感覚が麻痺してしまったのだと思っていた。だけど、いくら指で探しても傷らしきものはなかった。
フォルカは自身の首元を覆うネック部分を伸ばして引っ張って見る。黄色のセーターは、その部分だけ赤く染まっている。さっき着替えるときも、この血は自分のものだと疑いもしなかった。
まさかこの血はガイのものだろうか。でもどうして?
その瞬間頭に浮かんだのは、包帯が巻かれたガイの右手。ドキリとして、フォルカは元来た道を思わず振り返った。
追いかけてくるはずがないのに、ガイの姿を人の流れの中に探してしまう。
なんで言ってくれなかったんだろう。あの傷は理性を保つために自身でつけた傷だと。おまえのせいで傷を負ったんだと。
言ってくれれば僕は――。
胸が絞られるようにきゅうっと痛む。
無傷の首元を触りながら、フォルカはしばらくの間、その場に立ちつくしていた。
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