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長身の男の横にいた赤毛の司書が、声を張り上げたようだ。フォルカが見やると、小太りな赤毛の男が見開いたまん丸の目をこちらに向けていた。あわあわと口をまごつかせる。
「あっ……あなたは! もしやフォルカス王子ではありませんかっ?」
こちらの顔の上で目を泳がせる男に、一瞬戸惑う。だがフォルカはすぐに「ああ」と平静を装って笑顔を作った。
「行きつけのカフェでもよく似ていると言われるんだ。けど、さすがに人違いだよ」
こちらがやんわり否定すると、男は意外にもあっさりと「そりゃそうか」と恥ずかしげに笑ってこめかみを掻いた。
「ルミナス王国の王子様が、隣国のこんな田舎の学校にいるわけないよな」
一人納得し、男が続ける。
「急にすまなかったね。僕の祖母がルミナスファミリーのファンなんだ。今でも毎日のように話を聞かされているから、つい」
「いいや、王族と間違われるなんて光栄だよ」
フォルカが笑みで応えると、それまで黙っていた長身の男が、機嫌の悪そうな声でボソッと口を開いた。
「めでたい奴だ」
ん? 空耳だろうか。フォルカは思わず首を傾げる。
「それは僕に言ったのかい?」
フォルカが訊くと、慌てて答えたのは赤髪の男だった。
「こ、こいつは王族が嫌いらしいんだ。どうか悪く思わないでくれよ」
「悪く思うもなにも、こちらに対して悪く思っているのは彼の方じゃないかと」
「おい、ガイ! いくら俺が王族の話を出したからって来館者にあたることないだろ」
ガイと呼ばれた男は、
「別にあたってないさ。王族が嫌いだとも言っていない。別に好きでもないけど」
と冷たく言う。続けて、
「俺は事実をそのまま伝えただけだぜ」
男はフォルカたちに背を向け、カウンターの中から出ると館内の奥へと消えていった。
今のは一体なんだったんだ? 男の背中を目で追いながら、わかりやすく向けられた不機嫌に対し、呆気にとられる。
「気にしないでくれ。ガイは最近入ったやつなんだ。学園の知り合いの紹介かなんかでうちに司書として入ってきたんだけど、司書よりもごろつきって感じだよ」
そんな事情は知らないし、正直どうでもよかった。やれやれ顔の赤毛に、
「早く仕事に慣れてもらわなくちゃな」
とフォルカは冗談を飛ばすように笑った。昔から面倒なことが嫌いだ。場の空気が悪くなるぐらいなら、自分が我慢した方がまだいい……とわりと本気で思っている。
フォルカは気にしていない振りをしてから、「本を調べてもらっても?」と司書の男を促した。
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