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カタリーナの研究部屋に戻ってから、フォルカは書斎机の上に本の山を置いた。すると書棚の前にいたカタリーナが、
「ルカ、あなた今日は帰りなさい。もうすぐヒートでしょう?」
まさか教授がこちらの事情を鑑みてくれるとは思わず、「僕のヒートの時期、覚えていてくださったんですか」と口に出る。
「フルグル草に関することはもちろんよ」
「あの草はヒート抑制薬の原料ですからね」
教授らしいなと思いつつ笑えば、カタリーナが「何か問題でも?」と振り返る。今のフォルカの言葉で、研究者スイッチが入ったようだ。自身の研究対象であるフルグル草の可能性について、教授が語り始める。
自分はこの後に行く場所も決まっている。急いでハットを頭に被り、「僕はこのへんで」と会釈して部屋を退散した。
この世界には男女の性別のほかに、アルファ、ベータ、オメガという三つの性別が存在する。
アルファは男女ともに身体能力や知能が高く、各国の王族や皇族、ドクターに政治家や軍将校、そしてカタリーナのような学者に多いとされる。能力的に平均的なベータはいわゆる『普通の人間』として、人口が一番多いのが特徴だ。
そして三つ目の中で最も人口が少ない性別――それがオメガだ。オメガは生殖能力に特化した性で、男女ともに子を腹に宿すことができる。その性質から『ヒート』という発情期が三ヶ月に一度訪れ、そのたびにアルファの発情を煽るフェロモンを体から放つのだ。
それゆえ、オメガは祖国であるルミナス王国では昔から『淫魔の呪い』として忌み嫌われてきた。性交中にアルファがオメガのうなじを噛むことで、両者のあいだには番契約が発生するらしい。が、アルファとオメガの番契約や婚姻関係はその身分差から現実的ではなく、演劇や戯曲、小説など物語の世界でしか見たことがなかった。
フォルカが性別検査でオメガと判明したのは十五歳のとき。王族にはアルファしか生まれないことは、王族の系譜や歴史について学んだ際に知っていた。当時王室には従者も含めオメガはいなかったから、診断を受けたときは自分が自分じゃないみたいで落ち込んだ。
どうして僕が、と両親どちらかと血が繋がっていないんじゃないかと、信頼できる家庭教師に頼んで自身の出自について調べた。結果は紛れもなく自分は両親の本当の息子だった。その事実がやるせなさに拍車を掛けた。
けれど心のどこかで正直何も変わらないと思っていた。自分が王族である限り、生活も、家族との関係も。少しの疑いもなかったせいで、診断した担当のドクターたちや従者たちが、自分以上に青ざめていたことにも気づかなかった。
父アーモス二世の座る玉座の前に連れて行かれてから、フォルカはようやく事の重大さを理解した。王は王の間にいる騎士や執事たちの前で「能力の低いオメガは生むしか能がない」と言い切った上に玉座から息子を指差し、こう断言した。
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