贄(にえ)の桜

3/10
前へ
/10ページ
次へ
 この村で今現在、地域おこし協力隊として着任しているのは僕一人だった。以前にも、何人かいたらしいのだが、みんな長続きしなかったらしい。それでだろうか、桐野さん以外の村人たちは、僕に対して、なんだかよそよそしい態度をとっていた。そのことを桐野さんにそれとなく話してみると、「この村の人たちは、ほとんど顔見知りだから、ヨソからの人のことは、どうしても品定めしてしまうの。そのうち慣れてくるから、あんまり気にしないで」  と言われた。  田舎というものはそんなものかもしれないと納得し、僕はせいぜい、村人たちに嫌われないよう、頼まれたことをせっせとこなし、日々をすごした。  冬になると雪が積もり、高齢者が多いこの村では、あちこちで雪かきの手伝いを頼まれた。この地域の雪は水分を多く含むので、見た目よりもかなり重たい。三十分もやってれば全身汗だくになった。それでも頼まれれば、ほいほいと駆けつけていると、働きを認めてもらえるようになり、少しずつだが、気を許して話をしてくれる人が増えていった。  そうして、雪が溶け、長かった冬が終わりを告げようとした頃のことだった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加