最後の晩餐はカレーうどん

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 一人になると、力が抜けてその場に座り込んだ。あの人はまだ、なにか伝えようとうなり声をあげていたけれど、すぐに行く気になれなかった。あの人との会話は体力を使う。ヘルパーさんや看護師さんのほうがスムーズに聞き取れることも最近は増えた。 「長年みなさんのお世話をしていると、だんだん聞き取れるようになるんです」  と、看護師の中山さんは笑うけれど、あの人と一緒にいる時間は圧倒的に上であるはずの私より、知り合って間もない彼らのほうがあの人の言いたいことを理解できるという事実も私にはやりきれない。  一度タガが外れると、これまで押し込めてきた悔しさが一気にあふれ出して、涙が止まらなくなった。さっき宙に浮いていた、少なくとも私の目にはそう映ったバスタオルに顔をうずめて声を殺して泣いた。あの人の前では泣かないことが私のプライドを最後につなぎとめているものなのだ。  子供たちの手が離れ、夫の退職が近づいて、これから二人で第二の人生をどうしようかと期待をふくらませていた矢先に、あの人の病気がわかった。  パーキンソン病-聞いたこともない病名に愕然とした。
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