最後の晩餐はカレーうどん

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 夫は、決してグルメな人ではない。  最後の晩餐には何を食べたいかという質問に、「お茶漬け」と答えるような人だ。我が家のお茶漬けは、もちろんなにも特別なものではない。市販のお茶漬け海苔に気が向いたら梅干しや昆布の佃煮をのせて食べるくらいなものだ。  一家の主婦としては、せめて好物と思っていたピーマンの肉詰めとか、得意料理だったきんぴらとか言ってほしいものだと、思ったものだ。時には口に出していったこともあったかもしれない。でも、そんなところもあの人らしいと思っていた。  だから、あの人の口から「カレーうどん」という言葉が出てきたときは驚いた。我が家のカレーはこれまた特別なものではない。市販のルーに牛肉・人参・じゃが芋・玉ねぎのいたって普通のものだ。ちゃちゃっと作り置きができて、子供たちがよく食べてくれるので、忙しかった子育て期間には重宝した。次の日には出汁で薄めてカレーうどんにした。あの人も子供たちも文句も言わずに食べていたけれど、それほど喜んでいるようにも見えなかった。
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